SOMNIUM - Qualia
パーシュとトワの出会いのお話
私は先天的にメラニンが欠乏する遺伝子疾患を持っていた。
色素欠乏の為、肌と髪は白く、目は血の色が透けている。
外出するときは紫外線対策は必須になる。
所謂、アルビニズムと呼ばれている。
良く晴れた日はいつも大きな木陰の下で趣味の裁縫をする。
話し相手は空に陽だまり、翳り、それに木々、風。そんな素敵な色んなもの。
──雨が、降りますように。
そんな思いでかっぱを着ているような、てるてる坊主を模した、傘のような……そんなうさぎのぬいぐるみが完成した。
「私は白兎みたいってよくからかわれるの。だから、あなたは黒兎。名前は──」
「名前は?」
「あら? ぬいぐるみからお返事がくるなんて」
「はじめまして。ボクはキミがいつも話してるものたちの一部だよ」
「驚いたわ。ぬいぐるみに命が宿るには早すぎると思ったの」
「それは悪かったよ。もっとキミと話したくなったんだよ、パーシュ」
いつもこの子たちは色々な方法で返事をしてくれる。
それは陽だまりのゆらぎ、木々のざわめき、雲の流れ方、本当に色々な方法で。
「あなたはどの子かしら?」
「ボクは翳り。いつもキミの下で揺らいで返事をしている、翳りだよ」
「いつもありがとう。ええと、カゲリさん?」
「翳りっていうのは総称で、ボク自身の名前は特にないんだ」
「だからこのぬいぐるみの身体と名前、ボクに貰えないかな」
うーん、と少し悩んでみせる。
「どうしようかしら、タダではあげられないわ。何事も対価が必要なの」
「パーシュは外を歩きたいんでしょう。いつも話していたから知ってるよ。身体と名前をくれたらボクが日を防ぐ傘になってあげるよ。翳りの日傘はたんと特別だよ」
「それは素敵。いいでしょう。よろしくね、トワ」
「よろしく、パーシュ。ボクのことはトワって呼んで」
ぬいぐるみは少しの翳りを揺らめかせながらほほ笑んだような気がした。
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