5/
「あ、あああ、あああああああああああああああっ!」
覚醒と同時に、紡は叫んでいた。
「あああああああああああああああっああっ!」
その勢いのまま、転がるようにして外へ飛び出した。
裸足の足が痛みを訴える。登校中の学生がざわめく。顔は涙と鼻水でぐちゃぐちゃだった。そんなものはお構いなしに、ひたすら走り続けた。あの部屋に居たくなかった。
もう、何も考えられず、そして考えたくもなかった。
ただの高校生である紡が、自らの死に触れ続けるにはもう限界だった。
住宅街を駆け抜け、車が行き交う国道に飛び出す。立ち止まれない。クラクションが鳴った。路面電車が急停止する。誰かが叫んでいた。通行人がざわめいている。気にする余裕はない。無視して走り続ける。
公園を抜け、商店街を抜ける。何度も倒れそうになって、足からは血を流して、紡は駅に辿り着いた。そこで、ようやく立ち止まった。
通勤、通学時間と重なっていることもあり、駅には大勢の人が行き交っていた。それは、まるで幾重にも重なった川のようにも見えた。その流れを、紡は一人ぽつんと立ち尽くして見ていた。
ある人は携帯電話を片手に、ある人は雑誌を読みながら、ある人は友人と会話をしながら、思い思いに通り過ぎていく。中には紡へと視線を向ける者もいたが、それは通り過ぎるまでの間でしかなかった。
紡は、しばらくの間それを眺めていた。その後、ふらふらとした足取りで、人の流れに沿うように歩いて行く。流れは駅を出て、正面の広場へと向かっていた。動くがままに付いて行き、広場の隅に並んでいたベンチへ、半ば倒れるようにして腰を下ろした。
目まぐるしく世界が動いていく。一人一人が行なっていることは、全く違う。それなのに、そこには大きな一つの意思があるように思えてしまう。目が回りそうな奔流の中にあって、まるで世界で一人、自分だけが異質であるかのような錯覚すら覚えた。
やがて、溢れんばかりだった人通りも次第にその数を減らしていく。
そんな時、人の波に乗って一人の女性がやってきた。
彼女はシャツとカーディガン、ジーンズとスニーカー、頭には目深にキャップ、と云うシンプルな出で立ちだった。その背中に大きなものを担いでいる。そのシルエットから、それがギターだと分かった。
彼女は隣のベンチに腰を下ろし、その前にギターケースを開いて置くと、構えたギターをかき鳴らした。
絶え間なく流れ続ける車のエンジン音、路面電車のアナウンス、人々の話し声。それらにかき消されながらも、クラシックギターの音を周囲に響かせる。
懐かしい曲だった。彼女が演奏していたのは、ロックでも、フォークでもなく、昔懐かしいアニメソングだった。
決して上手とは言えるものではなかった。素人の耳でも、幾つも演奏を失敗しているところが聞き取れた。歌に至っては、到る所で音程を外していたし、そもそも隣に居る紡にすら殆ど聞こえていない程の声量でしかなかった。
それでも、彼女は必死にギターの弦を弾き、声を振り絞って歌っていた。
やがて、曲目は『スリーミニッツ』の曲へと変わった。
普段は何もできない少年が、影でヒーローになる。それを謳う無骨であり、泥臭い曲だ。歌詞の中で、彼女は愛を叫び、正義を歌った。
彼女の演奏に耳を傾ける者は、相変わらずいなかった。彼女の前を次々に素通りして行く。その中には、ギターケースを蹴飛ばしていく者もいた。
紡はその光景に頭に来ると同時に、どこか納得してしまう。
そんなものなのだ。現実は。
彼等にとって、彼女も紡も背景でしかない。極論を言えば、道端の石ころと変わらないのだ。だから、何をしても気づかないし、そもそも気づこうとしない。反応するにしても、自分に何かの害があって初めて敵意と云う意識を向ける。
それは、言い換えれば、誰かが困っていても、この世界は誰も助けてくれやしないと云うことだ。
誰も彼もが見知らぬふりで、自分の事ばかりを考えている。現実なんて、そんなものなのだ。ヒーローなんて、どこにもいないのだ。
――そして、何も動けていない自分も、他と全く変わらない。
「は……ははっ」
紡は、嘲笑ってしまう。
演奏を聴いているにもかかわらず、あのギターケースにお金を入れようとする勇気も行動力もない。
ヒーローになりたいと願っていた自分が、ヒーローにも、登場人物にもなろうとしていないのだ。
そこで紡はようやく自分の格好に気が付いた。パーカーにスウェットだけ、着の身着のままで飛び出した自分は、財布も携帯も何も持っていない。そもそも、払うお金すら持ち合わせていないのだ。一瞬だけ戸惑って、また笑った。もう笑うしかなかった。
それはつまり、逃げたくてここまで来たというのに、電車で遠くへ逃げることも叶わないことを示しているのだから。
時間は過ぎていく。彼女の歌う曲は、次の曲へと変わっていた。過ぎ行く人たちに無視されるその歌を、紡は項垂れたままで聞いていた。
こうして時間が過ぎていけば、必ず鎮はやってくる。紡はぼんやりと、どこか他人事のようにそう考えた。ただ、それは当てずっぽうではなく、確信があった。
自分はループしている。
それが、これ以上ない答えだ。
五月十日に目を覚まし、死ぬ。そしてまた、何度も五月十日を経験する。
厳密に言えば、これより前にそう考えてはいた。ただ、混乱の最中にあって、その答えだけを適切に拾うのは、難しいことだった。
そもそも、ループなどと云うものは、フィクションの世界に在って然るべきものなのだ。それが現実で自分に起こっていると結び付けるのは、何らかの決定的なアプローチでもなければ届き得ない。
それが、有栖川鎮であった。
自分の行動が同じなら――例えば、学校に行くことや、家に引きこもったままでいると――同じ事象が起こる。正に、繰り返し(ループ)だ。
当たり前のようではあっても、それはこう云った事態でもなければ確かめようの無いものだ。そして、経験に因る実証結果が、その決定打となった。つまり――
『有栖川鎮は、神船紡を殺害しに来る』
これ以上ない程に分かり易く、そして受け入れがたい内容。
これまで五回、少なくとも記憶の中で紡は殺されている。ただ、余りに強い恐怖の上では、記憶は曖昧なものだ。紡が意図的に忘れてしまっているだけで、それ以上のループを経験している可能性だってある。
まるで冗談のような話だ。紡は静かに一人、笑うだけ笑って、同じように静かに泣いた。
どれくらい時間が経ったのだろうか。女性の演奏が二曲、三曲と切り替わり、そして終わっても紡はずっとそのままベンチに座ったままだった。
動く気にはなれなかった。何をしても変わらないのだ。
殺されるのなら、殺されて構わない。
どうせ、またやり直すことになるのだから。
そして無限に続いて行く。抜け出すこともできないまま、ただ、自分より遥かに大きい、この世界の波に流されて。
「泣いてるの?」
項垂れたままの紡に、頭上から。声がかけられた。
見れば、そこには女性が立っていた。さっきまで、ギターを抱えて演奏していた彼女だった。
「飲む?」
彼女はそう言って、コーラの缶を手渡してきた。汗に濡れるその缶ジュースは、冷たかった。
◇
「聞いててくれたでしょ。そのお礼」
言っていることが分からず、ついきょとんとしてしまう。
彼女は「これ」と言って、背中のギターを後ろ手に叩いた。
「それは、分かってます、けど」
「君だけだったよ。ちゃんと聞いてくれてたの」
言いながら、彼女は紡の横に腰を下ろす。ぷしゅ、と持っていたダイエットコーラのプルタブを開け、ぐいと傾けた。
「飲まないの?」
「あ、いや……」
「今日は熱いから、水分はちゃんと取っておかないと」
「そうじゃなくて……」
「ん?」
彼女はコーラに口を付けたまま、首を傾げた。キャップの陰から、彼女の瞳が姿を現す。
「あの、別に、」
「なに? はっきり言って」
「……別に、お礼を言われるようなことはしていません」
「え?」
「あの、だから、僕は聞いていただけで、別にお礼を言われるようなことはしてないです!」
彼女の一方的な反応に、紡はついカッとなって強く言ってしまう。一瞬遅れて後悔する。何を初対面の人に当たっているんだ。
「ふふっ」
それなのに、彼女は面白そうに笑った。
「何だ。ちゃんと喋れるじゃない」
「え……?」
「ずっと俯いて、泣いてたみたいだからね」
紡の返事を待たず、ぐい、と彼女は残りのダイエットコーラを飲み干すと、向かいにあったゴミ箱へ捨てに行く。そして、戻ってくると同じようにまた隣に腰を下ろした。
「最初は、私の歌で泣いてくれてるのかな、って思ったんだけどね」
そして、ギターを再び取り出して、膝の上に構えた。
「まぁ、君、そんな風じゃないじゃない。てか、よく考えたら私が来た時からそんな感じだったし。そもそも私の歌、そんなに上手くないし」
じゃぁん、と左手に弦を抑え、右手で弾く。
「分かってんの。下手糞だって。でもね、辞めらんないんだ」
「……」
「あー言いたいこと分かるよ。誰も聞いてくれないのに、って言いたいんでしょ」
「いや、その……」
彼女はコードを抑えて、弦を弾く。低い音から、高い音へ。練習のように、静かに、丁寧に。
「別にいいの。聞いてくれなくったって。そりゃあ、誰かが聞いてくれるに越したことはないけどね。私が好きでやってるんだから、それでいいじゃないって」
「それは……」
辛くないのか、と言おうとして、言葉に詰まる。
紡も理解している。彼女の言いたいのはそういう事ではないのだ。
どれだけ声を振り絞ったところで、背景としてすら認めてもらえないとしても、それでいいのだ、と彼女は言っている。自分がそう在りたいのだから、と。
「ま、なんて言うかさ。下手糞でも、誰も聞いてくれなくてもさ、きっとそれって、夢を諦める理由にはならないじゃない? それに、進もうとしないと、絶対に辿り着けない。アレと同じ。宝くじは買わないと当たらない、みたいな」
彼女は笑う。
「だから、君が聞いててくれたのが本当に嬉しかったんだよ。ようやく、結果が出た、って感じでね。お礼ぐらいさせて貰わないと。私の最初のお客さん」
「……はい」
「ま、それはさておき。誰にも見られないってのは、悲しいものだね。バレて騒動になるのは困るけど、全く話題にもならないのはちょっとヘコむなー」
しみじみと彼女は言う。内容の割に、その口調は悲しんでいる様子ではなかった。
「たったこんだけしか、変装してないってのにさ」
彼女は紡にだけ見えるように顔を近づけて、くい、とキャップを持ち上げた。
「ね」
にこり、と彼女は笑う。
「……?」
「……え」
「……え?」
「……マジ?」
「な、何が、ですか」
どんどんと近づいてくる彼女に、紡はたじろいでしまう。今更ながら、彼女はとても整った顔立ちをしていた。それはクラスメイトや、学校、近所などで比較しているレベルではない。モデルや芸能人の水準に近い。要するに、そんな美人と顔がくっつきそうな距離にあって、とてもではないが冷静ではいられないのだ。
「……う、うーん。君、あんまりテレビとか見ない方?」
「えーと……そこそこ」
「そ、そこそこ、か。うーん、微妙だ……」
彼女はそのまま丸まるようにして頭を抱えた。
「ええと、すみません」
「あの、なんでいきなり敬語に」
「MiRaって聞いたことない、ですかね」
「MiRa……」
聞き覚えがある。そうだ、最近売り出し中のアイドル、だったはず。
「……あ」
ようやく気が付いた。メイクがテレビのそれより薄く、アイドルらしい恰好ではないが、彼女の顔立ちや声はそのMiRa本人と重なる。
「今日の朝、テレビに出てた……」
「よ、よかったー」
キャップを深くかぶり直しながら、彼女――MiRaは安堵の声を上げた。
「知ってたのなら良かった。自意識過剰ちゃんになるところだった……」
「あ、あはは……」
「ちなみに今日の朝の番組は録画です。あと、私の事は秘密で」
落とした肩をすぐさま張りなおし、びしり、と彼女は釘を刺す。
「は、はい」
「まぁ、君はあんまり人に言いふらしそうな感じがしないけどね、なんとなく」
「はぁ……」
それきり二人は黙ってしまう。彼女は、ギターの弦をぽろぽろと弾いて手遊びしていた。紡はそれを何も言わず見ているだけだった。
人の流れは絶えず流れ続けている。その様子はまるで時間のようだと、紡は思う。そして、こうして流れに乗ることもできず、それを見ているだけの自分は、時間に取り残された人間なのだと、思ってしまう。
「……あの」
「ん?」
ギターから視線を外さないままで、彼女が答える。
「夢、って何ですか?」
「私の夢、でいいんだよね」
はい、と紡は頷く。
それは、さっきから、どこか気になっていたことだ。
「私はね、本当は歌手になりたいんだ」
「歌手、に。アイドルとして、もう有名になっているのに、ですか?」
うん、ときっぱりMiRaは首を振った。
「私ね、子供の頃は内気でさ。だから昔は――っていうか、今もなんだけど、オタクだったんだ」
「オタク、ですか」
「そう。オタク。友達がそもそもあんまりいなかったの。それで、ようやくできた友達から、漫画とか、アニメとかを教えてもらって、一緒にそんなのばっかり見てた。知ってる? 『スリーミニッツ』ってアニメ。私、あれが一番好きなの」
「……知ってます」
紡の返事に、MiRaはにこりと笑って答えた。
「それでね、私が一番好きだったのは、歌だったの」
コードを優しい手つきで鳴らしていく。『スリーミニッツ』の主題歌。何度も聞いた、紡も大好きな歌。
「素直で、熱っ苦しくて、カッコいいって感動した。それで、こんな風に歌う人になりたいって、考えるようになった。それから、ずっとそう考えてて、歌の練習なんかを一人でやってた。そしたら、アイドルにならないかって、スカウトされたの」
それも納得がいく。彼女の容姿はとても人目を引く。
「興味ないって思った。だって私がなりたいのはアイドルなんかじゃなくて、歌手だったんだから。まぁ、結果から言うと、アイドルになったんだけど」
「……どうして、ですか?」
「考えて考えて、考え抜いて、やる前から意味がないって切り捨てるのは、もったいないって、そう思ったの」
ワンフレーズを弾き終って、彼女は弦を抑えて音を止める。
「アイドルって歌ったり踊ったりするでしょ。アイドルになって、そういうレッスンも受けることができた。まぁ、歌が下手だから、他の子みたいに歌うのはできてないんだけど、その分お芝居なんかに挑戦することもできた。それもね、きっと歌に活かせることができる。歌ってさ、ただ歌詞をなぞって、音程を取るだけじゃダメなんだよ。感情を乗せないと、相手の心には響かない。こうして学べたことだけでも、ほらね、無駄にはなってない」
彼女は紡へ視線を合わせると、あはは、と笑った。
「たぶんね、どんなに遠回りでも、無駄なことってないんだよ」
「……でも、不安じゃないんですか」
「不安だよ」
きっぱりと彼女は答える。
「いつも、間違っているんじゃないかって、思ってる。このまま、歌手になれないんじゃないかって、考えて怖くなることもある。でもね、何より、初めから諦めて、できないって決めつけてしまうことが――考えを止めてしまうことが、一番怖いんだ」
「……」
「たぶん、考え続けなきゃダメなんだ。考えて悩んで、解決したと思っても、また考えて。そうやって、一歩ずつ前に進んで、成長できる。だから、なりたいものになれる」
彼女の言葉に、淀みはない。真っ直ぐな、信念だけがある。
その姿は、まるで――
「――っと、語りすぎちゃったね」
偉そうだったね、と彼女は照れ臭そうに笑うと、ギターをケースに仕舞い、立ち上がる。
「お昼も過ぎたし、そろそろお腹も空いてきたからね。帰るとするよ」
ん、と彼女は背伸びをした。青い空の背景は、彼女の姿にとても似合っている。
「そうだ。最後にさ、名前、教えてよ」
「あ……はい。僕は――」
言おうとして、紡の動きが止まった。
名乗るよりも早く、その名が呼ばれたからだ。
「――え?」
「君の知り合い?」
二人の視線が、声のした方向へと向けられる。
「――神船紡、で間違いないようだな」
その喉が灼けたように掠れた声に、喉の奥がぞわりとする。災厄のような存在だと、直感的に紡は感じ取る。
「成る程。確かに、マナは感じ取られる。マギアを継いだ、というのは真実だったようだ」
声の主が姿を現す。
絶え間無く行き交う人の流れの中、頭一つ飛び抜けて、その人物は立っていた。すらりとした長身ではあったが、全体像を確かめて、紡は相手が女性であると、初めて気が付いた。
その出で立ちは、無数の人の中にあって異質でしかなかった。
まず、目に付いたのが灰を連想させる、真っ白な短い髪。そして、その髪の白さに伴うかのように、その肌も病的な程に白い。それとは対照的に、彼女の身に付けている服装は黒い革製のジャケットとパンツだ。
白と黒。彼女の在り方は、どこか喪服のようで死を想起させる。
「こんな所にいるとは。探す手間が省けた」
かつり、かつり、と彼女の革靴がコンクリートタイルを叩く。その音は雑踏の中にあって、やけに大きく聞こえてくる。近付いて、その顔が見えてくる。格好でこそ大人びて見えるが、その顔立ちは紡とそう変わらない年齢のように見えた。
「あなた、何を言ってるの?」
MiRaが紡へと進路を塞ぐように、一歩前に出た。不審な人物が、意味の分からない言葉を発しながら近寄ってきているのだ。警戒して然るべき状況である。
だが、しかし。
――ダメだ。
その言葉は出てこない。
紡には、彼女の言葉の意味が、僅かに分かってしまう。
恐怖。幾度と死を経験した紡だからこそ、生物的な死への忌避感が頭を走り抜けている。
それはつまり――有栖川鎮に感じてしまったものと同じもの。
「ねえ、あなた。聞いてるの?」
「お前は、一般人か。邪魔だ」
「え――」
時間が一瞬、停止する。
女性がMiRaの横を通り抜ける。すると、小さな声を漏らし、糸の切れた人形のように、MiRaは力を失い倒れた。静かに、モノトーンの女性はMiRaを片手で受け止めた。ぐったりと、MiRaの腕が垂れ下がる。
「――っ!」
思わず立ち上がる。だが、体は硬直してしまっている。思考は鈍く錆びついていく。
――何をした?
僅かに残る思考を埋めるのは疑問だ。そして疑問は恐怖を生む。気を失ったMiRaの事は気にかかる。しかし、近寄れない。そうするべきではない、と本能が訴える。
「安心していい」
灼けた声が、静かに告げる。
「殺してはいない」
「殺、して、って」
その言葉そのものに、身体が震える。
同じ? いや、違う。
彼女は、有栖川鎮とは在り方が違っている。もっと、恐ろしい何かだ。
「神船紡、アタシはアンタに特別恨みがあるワケじゃない」
かつり、と足音が響く。
「ただ、巡り合わせが悪かっただけだ。恨むなら、マギアってもんに関わらせた、アンタの爺さんを恨みな」
吐息すら交わりそうな距離に、その死神はいる。
逃げ場など、どこにもない。
「この世界に、マギアなんてものは、不必要なんだ。だから、」
さよなら――
その言葉を聞き終える前に、紡の意識は断ち切られた。
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