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神船しぶね君、最近雰囲気が変わったような気がするわ」

 夕暮れの色を浮かべ始めた町並みを背に、少女は言った。

 一瞬遅れて思考が正常に動き出す。重なるように、世界に音が溢れてくる。

 ブラスバンドの練習。野球部の掛け声。中庭で遊ぶ生徒の弾んだ声。そして空を飛ぶ鳥の鳴き声と、静かに頬を撫ぜていく風の音。

「――え」

 神船紡しぶね・つむぎの口から間抜けな声が出た。紡自身もそう思ってしまう。こんな――女子から呼び出しを受けると云うシチュエーションで、男子としては格好つけるべき場所であるのに、状況を理解できていないようで格好悪い。

「そのままの意味だけれど」

 何でもないように、さらりと少女――有栖川鎮ありすがわ・しずめは言うと、誤魔化すようにくすりと笑った。その様子に、思わず紡は見惚れてしまう。

 有栖川鎮はとても美しかった。

長い黒髪がきらきらと、まるで砂金を泳がすように風に揺れる。人形のように整った顔立ちは、深い角度から照らされる光にその輪郭を際立たせている。切り取ってしまえば、一枚の絵画になってしまいそうなほどに、その光景は完成されていた。 

「最近、変わったことでもあったのかしら」

「あ、えーと――」

 言葉に詰まる。鎮は面白そうにじっと見ている。

「――ねぇ、神船君」

 鎮の声は不思議と頭に響いてくる。紡はまるで体に電流が走ったような感覚を覚えた。

 泣きそうな、少しだけ潤んだ瞳が紡を捕える。

「私の初めてを、貰ってくれないかしら」

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