神宮球場観戦デート

土曜日の夜、俺と絢音ちゃんは神宮球場でデートをすることになった。対戦カードは東京ヤクルト対横浜DeNA戦。座った席は一塁側の内野席だ。そして俺は、絢音ちゃんにヤクルトのユニフォームを着せられた。この日は土曜日ということもあり、神宮球場は満員御礼。一塁側・ライトスタンドはスワローズファンの、三塁側・レフトスタンドはベイスターズファンの声援が凄い。




「なんであんたがこっち座ってるのよ。ここヤクルト側だよ?」




試合前、ちょうどベイスターズの打撃練習が終わった時だろう。球場の売店で買った夕食を食べていた絢音ちゃんが後ろの席に向かってこう言った。相手は高校生くらいの女の子。背は絢音ちゃんと同じくらい。髪はまあまあ長く、ベイスターズのユニフォームを着ている。その女の子は、「一塁側しか売ってないって言われたから仕方ないでしょ」と絢音ちゃんに反論してきた。


・・・そういうことか。ここ数年、横浜スタジアムが連日超満員となり、プラチナチケットと化したせいで、横浜のチケットを買えないベイスターズファンが神宮や東京ドームにまで溢れ出てるってのは前々から聞いていたが。周りを見渡してみると、一塁側でもベイスターズのユニを着た観客がちらほら見かける。一塁側内野席の大半はスワローズファンだが。そして絢音ちゃんが「あんたも何か言ってやりなさいよ!」と言ってきたので、俺は「君は絢音ちゃんの友達なの?」とその女の子に声をかけた。




「はい。桜沢舞香さくらざわまいかです。絢音ちゃんとは同じ学校の友達です。あなたは絢音ちゃんの彼氏さんですか?」




その女の子・舞香ちゃんは礼儀正しそうにそう言った。俺も「別に彼氏でもねぇが・・・俺は沖山太一おきやまたいち。よろしく」と言葉を返す。その間、絢音ちゃんは「別に彼氏じゃないし・・・」と小言を漏らしていた。




午後6時、試合開始。スワローズの先発は由規、ベイスターズの先発は濱口。ここまでスワローズは6連敗中で最下位に低迷。スワローズ側からすれば、今日こそは勝って交流戦に繋げたいところだ。


試合はDeNAが1点を先制するも、ヤクルトもすぐに追いつき、1対1で7回裏に突入、一塁側・ライトスタンドからは大量の傘が舞った。DeNAはこの回から三上を投入。しかしヤクルトはチャンスを作り、雄平のタイムリーでついに勝ち越し。そして、坂口も走者一掃のタイムリーを放ち、ヤクルトはこの回4点を入れる。絢音ちゃんは「今日こそ勝てる!」と意気揚々だ。


結局、ヤクルトはこの4点を守りきり勝利。連敗を6で止めた。試合後、絢音ちゃんは騒ぎに騒ぎまくり、舞香ちゃんは意気消沈していたのは言うまでもない。




翌日も3人で神宮球場に向かった。この日は交流戦前最後のゲームだ。つまり、この試合が終わると両チーム共に交流戦に突入する。座った席はネット裏の2階席。見やすい。今日も例によって、絢音ちゃんはスワローズの、舞香ちゃんはベイスターズのユニフォームを着ている。




「沖山さんはカープファンなんですね」


「まあ、広島出身だしな」


「舞香ちゃんはどこ出身なの?横浜?」


「いいえ、都民です。目黒区の碑文谷ひもんや


「・・・舞香ちゃんも高そうな所に住んでるな」


「いいえ、私の父は普通のサラリーマンですよ。絢音ちゃんには敵いません」




俺と舞香ちゃん、意外と話が合うな。それに対して絢音ちゃんは「なんで私を差し置いて、舞香と仲良くなってんのよ・・・」と小言を漏らしていた。肝心の試合の方は、ヤクルトが中盤に逆転、そのままリードを保ち連勝。ヤクルトは連勝、DeNAは連敗で交流戦に突入することになった。


試合後、意気消沈の舞香ちゃんとは別れ、俺と絢音ちゃんは2人で帰路に向かった。




「結局、デートといえるデートはできなかったな」


「舞香がいたからね。でも私は不満じゃないよ」


「それはスワローズが勝ったからだろ」


「うん!」


「少しはカープが連敗して落ち込んでいる俺の気持ちになってくれよな!」


「ざまあみろー」


「これ以上俺の傷で弄ぶな!」


「ごめんごめん。だったらコンビニ寄って、何かおごるよ?」


「いいよ。年下が無理におごる必要ない」


「大丈夫。私、お金持ってるし」


「そういう問題じゃねぇし!」




結局、俺と絢音ちゃんはコンビニに寄り、アイスキャンディーを買ってくれた。2人はコンビニの前で座り、そのアイスキャンディーを食べることにした。絢音ちゃんは「これ、2人で分けあっこできるよ」と上機嫌だ。俺は絢音ちゃんからそのアイスの半分を貰った。しかし、俺は「結局半分お前が食ってるじゃねぇか」とそのアイスキャンディーを頬張りながら言ってやったが。




「もうこんな時間だね・・・」


「ああ。もう10時回ったし、そろそろ帰らなきゃヤバいだろ」


「うん。明日学校だし」


「俺も明日は1限からあるから早く帰りたい」


「じゃあ、これ食べ終わったら帰ろうか」


「そうしてくれたら助かる」


「今日は楽しかったよ。また2人でデートしたい」


「俺も楽しかった。また絢音ちゃんとデートをしたい」


「ありがとう・・・」




俺と絢音ちゃんはほぼ同時にアイスキャンディーを食べ終えた。そして再び、お互い揃って帰路に着く。




「あ、家着いた。じゃあね、沖山くん。今日は楽しかったよ!」


「ああ、こっちこそありがとう。俺もデートできて楽しかったよ!」




絢音ちゃんは俺に笑顔を出して帰って行った。この時の絢音ちゃんの笑顔は、世界中の誰よりも、間違いなく一番可愛かったと思う。

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