交流戦
交流戦に突入した。カープは最初のライオンズ戦を1勝2敗で負け越した一方、スワローズはマリーンズ戦を2勝1敗で勝ち越すことができた。俺はこの3日間はバイトがあり、球場に行くことはなかったが、絢音ちゃんは3日間、神宮球場でスワローズ戦を観に行っていた。試合が終わると俺に試合が終わったことを知らせるスコアボードが載せられた画像をLINEで送ってきた。流石にスワローズが勝った時の絢音ちゃんは機嫌がいい。生き生きとしている。LINE越しでもわかるほどだ。
そして金曜日。交流戦は2カード目。カープは千葉でマリーンズと、スワローズは仙台でイーグルスと対戦する。この日俺は絢音ちゃんを誘い、カープ戦を観に行くことにした。金券ショップで三塁側のペア席が安く買えて助かった。
「ごめ〜ん、待った?学校、さっき終わったところ」
「大丈夫。俺も午後まで講義だったから」
午後5時、水道橋駅。俺の大学も絢音ちゃんの高校もこの駅が最寄り駅のためこの駅で集合する。俺も絢音ちゃんも直で球場に行くので、制服姿の絢音ちゃんが見ることができた。中高一貫の女子校らしく、上品な制服だ。そういえば琴音ちゃんもここの中等部に通ってるんだっけ。
「しかし、お前が
「そういうあんたも
「そうだけど、お前ほど頭良くねーよ。横綱と平幕くらいの差があるわ」
「なんで相撲に例えるの・・・」
俺と絢音ちゃんのやりとりは続く。
「ところで、席はどこなの?」
「三塁側、内野席」
「高かった?」
「別に。金券屋で安いのが買えたから」
電車に乗ること1時間、目的地であるZOZOマリンスタジアムに到着した。球場に着いた時にはもうすぐ試合が始まるところだった。周りは真っ赤っ赤。一塁側もかなり赤い。
「・・・なんで広島のファンって、一塁側でも平気で座るの?」
「ロッテもこの間赤ユニ着てたし、そのユニ着てるんだろ」
「ふーん・・・」
球場に着いた俺たちは早速売店に向かい夕食を購入。俺はカツカレーを、絢音ちゃんは焼きそばを食べることにした。そしてお互い売店で夕食を買っているうちに試合が始まった。カープの先発は大瀬良、マリーンズの先発は涌井だ。試合は点の取り合いだった。カープは幸先よく3点を先制するも、試合中盤に逆転を許す。しかし丸のホームランですぐに追いつき、7回には鈴木のタイムリーで再びリードを奪う。そして8回に會澤のホームランで追加点をもぎ取ったカープがそのまま勝利した。
試合が終わった頃には、夜の10時を回っていた。絢音ちゃんは明日明後日と仙台までスワローズ戦の遠征に行くらしい。
「・・・ったく、明日朝早いのにこんな時間まで付き合わされちゃった!」
「カープ勝ってるんだからいいだろ。それにスワローズも勝ってるし」
「そうだけど・・・でも、今日はデート楽しかった。それだけは評価するわ」
「俺も絢音ちゃんとまたデートできて嬉しかったよ」
「ありがとう。だから私、太一のこと大好き・・・」
「え?それって・・・」
「ううん、何でもない!何でもないの!」
絢音ちゃんの態度が態度だったので、俺は深入りすることをやめた。そして千駄ヶ谷駅に着いた時には夜の12時になろうとしていた。
「沖山くん、さっきの話聞いてどう思った?」
「え?さっきの話は、あまり聞いてなかったからさっぱり・・・」
「・・・鈍すぎ。この鈍感男!」
「何だよ急にキレて」
「いつになったら私の気持ちに気づいてくれるの!」
「お前さっきから何言ってるかわかんねぇぞ」
「私、あんたのこと大好きなの!好きで好きでたまらないの!」
「え、それって・・・」
絢音ちゃんは顔が紅潮していた。そして・・・
「沖山太一くん、私はあなたのことが好きです。付き合ってください」
俺は生まれて初めて女性から告白された。それも親族以外から。従姉妹や妹から好きだと言われたことはあったが、軽い気持ちで言ってるし、あいつらが本気で好きって言ってるかどうかは・・・
「うん、付き合おう。俺も絢音ちゃんのこと好きだよ・・・」
俺の答えはこうだった。そして、お互い顔を合わせ、お互いの唇が触れあった。ファーストキスだ。脳が溶けるような、とても柔らかい感触。そして、
「ダーリン、ありがとう!今日は楽しかったよ!」
と俺に笑顔を振りまき、家に戻る彼女の姿は世界一可愛かったのは言うまでもない。
まあその後、カープが週末連敗し、スワローズが連勝。球場から傷心の気持ちで帰路に着く俺に、絢音ちゃんから試合のスコアボードが載せられた画像をLINEで送られたのは別の話になるがな。
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