第10話 ★実例紹介      

ごきげんよう、崔浩である。


さて、ではここから

「どのような事件に、

 どのような天体異常が比定されたか」

を紹介していきたい。


おお、ちょっと

アカデミズムっぽい記事であるな。


様々な現象を抽出しようと思ったが、

厨二であることを最優先させると、

大人しく有名な事件に対する凶兆を

引っ張り出した方がよい、と

思い直した。よって、みんな大好き

三国志についての凶兆をお送りいたそう。


さて、ここに書かれている

凶兆であるが、予め申し上げる。

「全部当たった占い」である。


とは言え、事件の年と

凶兆の起こった年を見比べると、

少々噴き出さずにはおれぬ。


歴史上の運用が

これだけふんわりしているのだから、

物語の運用もある程度ザルでも

よさそうである。


まあ、フィクションであるからこそ

きっちり詰めていく、と言うのも

一つのお作法であるな。


では、参る。



○226年 曹丕死亡

「宋書」上で初めて記される凶兆である。

これ以前の凶兆は「後漢書」「晋書」

に当たる必要がある。


223年 3月 月が心大星を犯す。

223年11月 月が北斗を覆う。

223年12月 月が心大星を犯す。

224年 6月 金星が昼に見える。

225年10月 木星が太微垣に逆行して侵入。

      三十日以上太微垣の中にいる。

225年11月 金星が昼に見える。

226年10月 彗星が少微、軒轅を横切る。



○227年~234年 諸葛亮北伐

諸葛亮の北伐及び死亡。

凶兆が示される件数の多さは、

またその事件の重大度をも示そう。

ヤバかったのだな、北伐。


230年11月 金星と木星が重なり、

      列宿を犯す。

231年 5月 火星が房宿の第四星を犯す。

      房宿第四星は

     「股肱の臣」を指す。

      ここで、張郃が戦死した。

231年11月 金星と木星、再び重なる。

234年 2月 金星と火星が重なる。



○234年 諸葛亮死亡

234年に赤い流れ星が、東北から西南の

諸葛亮の陣幕に向け、落ちた。


演義の創作かと思ったら

史書に書かれていた。



○239年 明帝死亡

234年 7月 月が楗閉を犯す。

235年 7月 土星が東井を犯す。

235年12月 月が鉤鈐を犯す。

236年 3月 土星、また東井を犯す。

      皇帝殺す気マックス。

238年 2月 月が心宿の西の端の星及び

     中央大星(さそり座アンタレス)

     を犯す。大星を月が襲うのは、

     もれなく大物が死ぬ、

     と言う解釈のようである。

238年 5月 月がまたアンタレスを犯す。

238年10月 客星が危宿周辺に出現。

      離宮から、騰蛇まで移動。

      さらに翌日、宗星を犯す。



○238年 司馬懿、公孫淵を倒す

公孫淵と言うのは、

中国東北部で自立した勢力。

三国志序盤に出てくる公孫瓚とは

あまり関わりがないようである。


凶兆が多く示されている通り、

諸葛亮以上の脅威として

認識されているのがわかる。


235年 6月 土星が井鉞を犯す。

235年10月 金星が昼に見える。

      尾宿周辺に、二百日以上滞在。

      星座としての意味以上に、

     「公孫淵が割拠したエリア」

      と言う意味が大きい。

     「その辺りで戦争が起こる」

      兆しである、と解釈される。

236年 3月 月が金星を尾宿辺りで隠す。

      戦乱ヤバいをさらに強調。

236年 4月 金星が井鉞を犯す。

236年 4月 土星が井鉞を犯す。

      井鉞を惑星が犯すのは

      戦争の前触れ、とされる。

      と言うのも、皇帝が総大将に

      軍権の証として渡されるのが

     「黄鉞」なのである。

236年11月 彗星が宦者の天紀星を犯す。

237年 7月 金星が二百八十日あまり、

      昼間に見える。

      場所は尾宿。またか。

238年 8月 大流星が襄平城の東南に落下。

      ちなみに譲平城は公孫淵の

      重要拠点の一つであった。

      ちょっと偶然の一致にしても

      出来過ぎであろう。



○249年 曹爽敗北

曹の苗字が示す通り、魏の皇族。

権勢を高める司馬懿を警戒、

一時は左遷まで追い込むのだが、

最終的には逆襲を食らい、殺される。


244年11月 土星が亢宿を犯す。

245年 8月 彗星が七星や張を横切る。

     七星の辺りは

    「周」のエリアとされる。

     殷の次の国の、周である。

     首都周辺で騒乱があるよ、

     と言う感じである。

246年 7月 月が左角を犯す。

248年 1月 月が亢宿の南の星を犯す。

248年 3月 彗星が昴の辺りに出現。

     昴は趙、魏エリアを示す。

    「魏」の乱という事である。

248年 7月 火星が畢宿を犯す。

248年 7月 土星が楗閉を犯す。



○255年 毋丘倹反乱

明帝曹叡の時代以来の有力武将。

累進していくが、それ以上に累進していく

司馬師、司馬昭を警戒。

遂には反乱を起こしたが、鎮圧された。


253年 6月 月が箕宿を犯す。

253年11月 月が東井を犯す。

254年11月 白氣が斗宿の側に現れる。

      オーロラ出現、

      大乱待ったなし。



○258年 諸葛誕反乱

諸葛誕は、諸葛亮の親戚。

魏に所属していた諸葛誕が

呉と結託して反旗を翻そうとした。

まぁ、魏の内部がどれだけ

ヤバかったか、と言うのを

占える乱である。


255年 2月 火星が東井を犯す。

      また、北轅も犯す。

      群臣の家に族滅が起こる兆し。

255年 9月 金星が南斗を犯す。

      大臣に反乱者が出る、と言う。

256年 7月 月が鉞星を犯す。

256年 7月 火星が井鉞を犯す。

256年 8月 月が箕を犯す。

      軍の將が死ぬ兆し。

256年 9月 月が東井を犯す。

257年 8月 木星が井鉞を犯す。

257年 9月 木星が逆行して、鉞を犯す。



○260年 高貴郷公事件

魏帝曹髦が司馬昭を排除しようと思ったが、

結局は配下の賈充と、その手先の成済に

殺された、と言う事件。

占いの解釈を見ると、現職皇帝が

殺されておるにもかかわらず

「大臣が誅される」と

書かれておることが多い。

闇の深そうな事件である。


256年 8月 月がアンタレスを犯す。

257年11月 彗星が角宿に見える。

258年 3月 金星が東井を犯す。

258年 3月 木星が東井を犯す。

258年 8月 木星が輿鬼を犯す。

259年 4月 木星が輿鬼を犯す。

259年10月 客星が太微垣の中に現れる。



○263年 蜀滅ぶ/鍾会の乱

260年 2月 月が建星を犯す。

      大臣が乱を起こす兆しと言う。

261年 4月 火星が太微垣に入る。

262年11月 彗星が亢宿に見える。

263年 6月 大きな流星が二つ西方に見え、

      南北に分かれて落ちた。

263年10月 歲星が房宿を犯す。



○280年 呉、滅亡(晋の天下統一)


すべて彗星の記録である。


276年 6月 軫宿に出現。軫は楚エリア。

276年 6月 氐宿に出現。氐は兗州を比定。

276年 7月 大角に出現。大角は玉座。

276年 8月 太微から翼宿、三台に流れる。

      翼宿も又、楚を比定する。

277年 1月 胃宿に出現。胃宿は徐州。

277年 4月 女禦に出現。後宮を示す。

      後宮の凶兆なのに……?

277年 5月 東方に出現。

277年 7月 紫微垣内に出現。

      天下統一の兆しと見做された。

278年 3月 柳宿に出現。柳宿は洛陽周辺。

279年11月 金星が夕方に西方に見える。

      普通のことではないか?




著名なのは、やはり諸葛亮の陣幕に向けて

流星が落ちた、であろう。


そしてまた、如何に様々な現象を

「それっぽく言い切る」ことが

重要であるか、がよくわかる。


279年11月の金星など、

何故書かれているのやらさっぱりわからぬ。



さて、と言う訳で、

ここまで天体と星の働き、

そしてその作用についてみてきた。


以上を踏まえ、実際に厨二をしてみよう。

実際の使用例を示してこそ、

「厨二しぐさ」の裏打ちがなせよう、

というものだ。


それでは、また次回。

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