ぼくのココロをみつけてください 箱を置いた犯人の出題編



 ここ茜色学院では、クラスごとに一人、クラス委員長というものを選出することになっている。

 クラス委員長は、担任や学年主任の先生から連絡事項をクラスメート全員に伝えるように言われたり、年中行事やイベントにおいてクラスをとりまとめる、いわば、小間使い兼クラスのリーダー的な存在である。

 仕事量が結構多い事もあって、勉強や部活に専念したい人は当然回避する役職で、自ら望んでやろうとする人は結構少ない。そうはいっても、リーダー的な立場を望んだり、部活には入らないからと自ら望んでやる人もいたりする。


 先日、八丁堀姫子のクラスで当然のようにクラス委員長を誰にするかの議論が行われた。

 立候補者はいなかった。

 担任の先生はクラス委員長の選出にはあまり口を挟まない。

 あくまでも生徒の自主性を重んじて、というスタンスなのだが、下手に絡んでは、学業や部活を優先しようと考えている生徒に足かせを付けてしまう事になるからと慎むよう言われているからでもある。


「先生、とある人を推薦してもいいか?」


 沈黙を破るように、とある男子生徒が挙手をした。

 陸上部に所属していて、それなりの成績をこれまで上げており、将来有望と言われている木下勇太郎であった。


「理由があればいいが」


 担任の先生がそう答えたと、


「柿崎志郎を推薦したいと思います」


 木下勇太郎が推薦した柿崎四郎は、どちらかと言えば目立たない男子生徒で、運動も勉強方面も、姫子に言わせるとあまりパッとしない人だという。中学一年の時も同じクラスであったための印象であって、本当は違うかもしれないとの事。


「……えっと、僕は……ちょっと」


 推薦された当の本人である柿崎志郎は口ごもって難色を示すように縮こまった。


「やりたいって言ってたじゃないか。だからやってみろよ」


 木下勇太郎がそう言うと、柿崎志郎は俯いて何も答えなかった。


「俺はお前のために推薦したい。その気持ちは変わらない」


「……う、うん」


 柿崎志郎は、木下勇太郎に圧されるように手を挙げようとするが、すぐに引っ込めてしまった。


「木下。本当に柿崎はやりたいと言っていたのか?」


 担任が確認するように言うと、木下勇太郎は、


「はい。明確には言っていませんでしたが、遠回しには言っていました」


「遠回し? 木下と柿崎は友達だから分かったといったところか。柿崎、クラス委員長をやるという事でいいのか?」


 担任の先生に言われても、柿崎志郎は何も言わなかった。


「柿崎君。クラス委員長、本当にやりたいの? 木下君が勘違いしているんじゃなくて?」


 そこで、八丁堀姫子が挙手をして、そう事を口にした。


「八丁堀! お前は柿崎の何を知っているんだ!」


 木下が大声でそう怒鳴った時だった。


「……お前に何が分かる」


 柿崎がそうぼそっと呟いたように姫子には聞こえたという。



 * * *



 姫子の話ではざっとこんな感じであった。

 話が長くなるからと学校では話せないから、と姫子が俺の家で話すと言いだした。不承不承承諾して、俺の部屋で話を聞くことになったのが……。


「うふふっ」


 八丁堀姫子は話し終えると、俺のベッドに横になって、枕を抱きしめた後、くんくんと鼻を鳴らして匂いをかぎ出したりしている。


「俺の枕を粗末に扱うな」


「優しく抱きしめているだけだよ? お兄さんの匂い、凄く良いし、粗末になんてとてもとても」


 俺に見せつけるように枕に思いっきり顔を埋めて、匂いをかいだりする。


「姫子は匂いフェチかよ」


「ううん、お兄さんフェチかな?」


 姫子の扱いには、困るものがある。

 自分の領域が段々と姫子に犯されていくかのような感覚がある。

 ぐいぐいと踏み込んでくるからこそ、そう感じてしまうのかもしれないが。


「何フェチかなんて話はどうでもいい。確認したいんだが、柿崎志郎は誰に対して呟いたと思う? 木下か、姫子か」


「う~ん、私かな?」


「どうしてそう思う?」


「私が出過ぎた真似をしたからかな?」


「それと、クラス委員長だが、その日には決定しなかったって事でいいのか?」


「あれ? どうして分かったの?」


 姫子が不思議そうな顔をして、枕から顔を上げた。


「決まったら、決まったで、そう言うだろ?」


「あ、それもそうだね」


「俺の予想だが、近いうちにクラス委員長に立候補すると思うぞ、柿崎が」


「どうして分かるの?」


「とりあえず、柿崎と木下と話がしたい。可能であれば、二人一緒がいいんだが、できるか?」


 俺は姫子の問いには答えず、そう言った。


「もうちょっとお兄さんの匂いを堪能したら、してあげる」


 姫子は俺の返答を待たずに、今度はシーツや敷き布団に顔を沈めた。


「……姫子。お前、変になってないか?」


「最近、セナの身体から彼女さんの匂いがして、なんか嫌なの。たまには、お兄さんの匂いで息抜きしないと」


 段々と変になっているのは確かだが、姫子にはやりたいようにやらせておくか。


「……」


 あの木箱と手紙を姫子の机の中に入れたのは、柿崎、木下のどちらかだ。

 ある程度答えは出ているのだが、二人が一緒にいる状態で確認するのが一番だ。

 そうしなければ解決しない問題があるのだから……。






『ぼくのココロをみつけてください 箱を置いた犯人の出題編』終了

解答編へ続く

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