ぼくのココロをみつけてください メモと箱の解答編
「なぁ、姫子。どうして、このメモ、『ココロ』だけカタカナなのか分かるか?」
俺は八丁堀姫子に『ぼくのココロをみつけてください』と書かれた紙切れを見せつつ、そう言った。
「気分的な問題?」
姫子は右頬の人差し指を押しつけながら思案顔を浮かべていたが、降参とばかりに苦笑いを口元に刻んだ。
「分からないから、お兄さんに質問しに来たワケで」
「『ぼく』『みつけて』も本来ならば漢字を使ってもいいが、あえて使わなかったと考えると、『ココロ』という文字をことさらに強調したかったんだんじゃないかな」
「でも、漢字が分からなかったからとか?」
「手書きだったら、その想定は成り立つけど、パソコンで打ったとなると話が違う。漢字が分からなくても、変換で簡単に漢字できるからね」
最近の変換、特に予測変換は凄まじいの一言に尽きる。
使えば使うほど、漢字などを忘れてしまいそうだ。
「じゃあ、パソコンで打ったからカタカナになったとか?」
姫子はまだピンとこないようだった。
「それもないかな? ようは『ココロ』という文字を強調したかったんだと思う。このメモを書いた人物がこの三角形の木箱の意味を教えるために、ってところだろうな」
俺は手にしていた三角形の木箱を指さし、
「そのメモを書いた人物と、この三角形の木箱を作った人物が同一人物ならば、『ココロ』はこの木箱そののものだ」
「……う~ん?」
姫子はまだ辿り着けていないようだ。
その言葉の意味に辿り着けないにしても、この木箱の開け方を見つける人はいるかもしれない。だが、それではこのメモの意味がなくなってしまう。このメモと木箱が対になっているからこそ意味が生まれるのだ。
「じゃあ、ココロと三角形の木箱、この共通点は?」
「ココロ……こころ……こころ……ええと、三文字だから、三角形とは、三が共通点?」
姫子はようやくこの謎解きの入り口にたどり着いたようだ。
「その通り。で、カタカナのココロという文字がこの三角形の木箱の開け方のヒントとなっている」
「そうなの? 私にはよく分からないんだけど?」
姫子は俺が持っている木箱を観察するように食い入るように見つめた。
そして、ようやく三角形をなすための二つの板の形が違う事に目がいったようだった。
「正三角形を作ろうとすると、板の端っこに角度を付けないと、正三角形にならないよね? でも、どうしてここだけ出っ張っているの?」
「答えは簡単だ。この二つの出っ張り二つがこの木箱を開けるための鍵なんだ」
俺はその出っ張り二つを指で少し広げつつ、前へと押し出す。
すると、三角形の木箱の三角形をなしている板二枚からなる『>』の部分が前へと出ていく。
カタカナの『ロ』は三角形をなす一枚の板に開く場所がない事を明示し、カタカナの『コ』は『ロ』とは違い、開ける事ができる場所が一カ所あると示唆していると俺は思っていたのだが、正解だったようだ。
「おお! すごいすごい!」
姫子は拍手までしている。
俺は種明かしをしたつもりなのだが、姫子は珍しい手品を見せてもらったような喜びようだ。
「予想通りか」
三角形の『>』の板には、くぼみがあって、指で広げない限りは『>』の部分が、残りの一枚の『|』から外れない仕組みになっている。
そして、三角形の木箱の内部構造は予想通り、上板と下板とが離れないように弁当の仕切りのような板で接着されているだけではなく、その仕切り板と『|』の板もくっつけられていて『T』みたいな形になっている。
「何も入ってないのね」
姫子が残念そうに言うが、何かが入っていたら、メモに書かれている『ぼくのココロをみつけてください』とは矛盾している事になる。
「さて、姫子。ここ最近、クラスかどっかでトラブルがなかったか?」
俺は真剣な眼差しで姫子にそう問うた。
「う~ん、私が何度告白しても、お兄さんがスルーする事がトラブルかな?」
姫子はまたしても小悪魔のような微笑みを口元に浮かべて、そんな事をさらりと言う。
本気なのかもしれないが、俺はとある課題を姫子に出していて、その課題をクリアできたらOKしてもいいとは言ってある。
おそらくは姫子一人ではどうしようもない課題なのだからできないのは仕方が無い。
しかしだ。
その事は今回の件とは全く関係ない。
「で、どうなんだ?」
「ちょっと揉めたといえば、クラス委員長の選出……かな?」
姫子は納得がいかない様子でそう答えた。
俺がスルーした事なのか、それとも、クラス委員長の選出について不満なのかは、俺には判断が付かなかった。
『ぼくのココロをみつけてください メモと箱の解答編 』終了
『ぼくのココロをみつけてください 箱を置いた犯人の出題編』に続く
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