些細な青春ミステリーは唐突に(旧作)

佐久間零式改

ぼくのココロをみつけてください メモと箱の出題編 



 桜が散り始めていて、校庭に風が吹き抜けると、落ちていた桜の花びらがひらひらと舞い踊る。


「……ふぅぅっ」


「ひゃうっ!?」


 校舎裏に設置されているベンチに腰掛けて、飛び交う桜の花びらをぼうっと見つめていた俺の耳に生暖かい空気を吹きかけられて、俺は思わず飛び上がりそうなほど驚いた。


「へ~っ、お兄さんって、そんな可愛い声出せたんだ」


 ツインテールを揺らしながら、八丁堀姫子はっちょうぼり ひめこはくすくすと笑っていた。

 何かを隠すかのように手を後ろに回しているのが気になったが、今は詮索する気が起きなかった。


「いきなり耳に息を吹きかけられたら驚くだろ、普通」


 八丁堀姫子は、小中高とずっと同じクラスという腐れ縁の八丁堀瀬名はっちょうぼり せなの妹だ。瀬名の家には昔からよく遊びに行っていたから、昔からよく遊んでいた事もあり、幼なじみというよりかは義理の妹に近い存在と言える。俺と瀬名は中高一貫の茜色学院あかねいろがくいんに入学したのだが、俺たちの後を追うように姫子も同じ学院に入学してきたのだ。俺と瀬名は高二で、姫子は中学二年なのだが、同じ敷地内に中学と高校があるため、こういうふうにたまに俺にちょっかいを出しに来ることがある。


「セナは彼女さんに同じ事された時、グッときたって言ってたんだけど、お兄さんはグッと来なかったの?」


 姫子は小首をかしげて、不思議そうな顔をした。

 何故かしら、姫子は実の兄の事を『セナ』と呼び、本当の兄でも、義理の兄でもない、月定邦雄つきさだ くにおこと、俺の事を『お兄さん』と言う。


「そりゃ、付き合っているからであって、俺はただ単に驚かされたと思っただけだ」


「なら、お兄さんと私が付き合えば、反応が違うの?」


「それはやられてみないと分からないな」


「じゃあ、私と付き合っちゃう?」


 姫子は小悪魔のように微笑みながら、軽い調子で言ってきた。


「……で、俺に何か用か?」


 昔からこういう事を何度も何度も言ってくるので、軽くあしらうのが通例となっていた事もあり、軽くスルーをした。


「うん。これを見て欲しくて。これ、どういう意味か、お兄さんだと分かりそうだし」


 姫子はスルーされる事を見越していたかのように、後ろに隠していた三角形の木箱と、折り目がしっかりと残っている一枚の紙切れを俺の前に出した。


「なんだ、これ?」


 俺にプレゼントというワケではなさそうだった。


「今日の朝、これが私の机の中に入っていたの。なんだろう?」


「お前の事を好きな奴からのプレゼントとか? その紙切れがラブレターじゃないのか?」


「それはないと思う。だって、こんな紙切れも一緒に置いてあったし」


 俺は木箱ではなく、まずはその紙切れを手に取った。


『ぼくのココロをみつけてください』


 紙切れはパソコンで入力して、プリントアウトした後、小さくするために切り取ったようであった。そこからさらに四つ折りにされていたようで、折り目がきっちりと残っている。昨日今日プリントアウトしたものではなさそうで、湿気を吸ってか、しなしなになっている感があった。


「……ココロ、ね」


 俺は紙切れを姫子に返して、その代わりに三角形の木箱を手に取って、調べるように眺めた。


「なんだろうね? この木箱、ふたが開かないし」


「……蓋? そうじゃないと思うが」


 手作り感が強い古びた正三角形の木箱だった。

 三つの細長い板を貼り合わせて、上から見ると三角形にした後、天井と底とを三角形の板を貼り合わせて閉じる事で、三角形の木箱にしている。

 三つの細長い板を貼り合わせて三角形を形作っている、木と木の合わせ目が整っていないため出っ張っている箇所が二カ所ほどあり、製作者の不器用さ加減が出てしまっている。

 それに反するように、木と木を合わせ目が整っていない箇所を除けば、上と底の三角形の板は綺麗に切断されていて、三つの細長い板を正確に覆っていて、はみ出していたり、下の板が見えていたりする箇所はない。何故か三角形をなしている三枚の板には出っ張りが残っていたのとは違い、精巧に切られていた。


「え? じゃあ、この木箱は何なの?」


「中に何か入っているか?」


「ううん。たぶん、何も入っていないと思うよ」


 俺は姫子にも分かるように木箱を軽く振った。姫子の言う通り、中には何も入っていないようで、音さえしなかった。


「なぁ、姫子。最近、何かの騒動に巻き込まれたり、何かに首を突っ込んだりした事は無いか?」


 俺が予想するに、これはメッセージだ。

 姫子はたまにお節介というか、人を助けようとしてやらかしてしまう事がある。善意からの行為なのだが、それは人にとっては悪意としか映らない場合や独善としか捉えられない事がある。


「特にはないと思うけど」


 姫子は思案するそぶりも見せずに即答した。


「本当か? もうちょっとよく考えてみろ」


 そう言われて、姫子は腕組みをして思考し始めた。

 しかし、何も思いたる事がないのか、何度も何度も首をかしげていた。


「……やっぱり、ないかな?」


 姫子は頬をかきながら誤魔化し笑いを見せた。


「なら、これに関しては深く考えない方がいいと思うぞ。あんまり良い思いはしないと思うだろうし」


 これがメッセージならば、こんなメッセージを発信するような奴とはあまり関わらない方が良い。

 おそらくは、姫子が善意か何かで言った事に対するメッセージなのだろうから。




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『ぼくのココロをみつけてください メモと箱の出題編』終了

『ぼくのココロをみつけてください メモと箱の解答出題編』 へ続く

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