第3話 破壊として

 異変は、父が巨大な影を西の塔から見つけてから十七年がたった頃に起きた。「グルクが接近している。」ここ十七年グルクは地平線をただ泳いでいるだけだったが、その影が徐々にライヒに近づいていたのだ。今回は彼の周りの人々はこの話をあっさりと信用した。その危機を察知した観測所は次の日、民衆を前に「グルクが接近している」ということを発表した。しかし、このときの民の反応は混乱ではなくどこか楽観的な物だった。なんとかなるだろう、と。十七年の繁栄は人々から危機感を奪い去った。それよりも今晩の夕食のメニューの方が大事だった。

 私はこのとき既に生まれていたのだが、なにしろ赤ん坊だったのでよく覚えていない。

 父はその深夜、グルクを発見したときのように、しかし今回は彼自身の砂上そりザント・モービルに乗って再びグルクに接近した。後に叔父から聞いたのだが、このとき彼は弟だけに「グルクと話してくる」と打ち明けたのだという。



 そして父は帰ってこなかった。


 

母は彼がいなくなってから病を患い、私が物心ついた頃には既にこの世にいなかった。最期は、生命維持装置を拒んだのだという。私を置いて。


 徐々に砂塵が国に吹き荒れるようになった。砂上鰯ザルディーネの砂揚げ量は減少の一途をたどり、人々はにわかに焦り始めた。「グルクは数年後にここ、ライヒを通り過ぎる。」そんな事が巷でささやかれ始めた頃には私は王立の「グルク征討隊」の隊長として、そして何より父と母の仇を討つ為に、グルクを狩ることを自身の宿命とした。

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