第2話  繁栄として

 最初を発見したのは若かりし頃の父だった。毎朝国の西側の塔から地平線を眺める習慣があった父は、ある朝、遙か遠くの地平線に砂漠を泳ぐように移動する巨大な影を見つけた。父は、それを親戚に話したが信じてもらえなかったという。当然と言えば当然だが、当時の青年はそれを証明するため両親の砂上そりザント・モービルを内緒で持ち出してまで、巨大な影に近づこうとした。しかし、あまりの砂塵と大地のうねりに触れることすらままならず、更に当時はまだカメラという物がなかったため、彼の周りを納得させる証拠は何一つ持ち帰ることができなかった。そしてその晩、父は世界が終わるのではないかというほど叱られたのだという。


 しかし、ある日を境に人々は一人の青年の言った巨大な影の存在を信用するようになった。突然、これまで不漁だった砂上鰯ザルディーネが大量に採れるようになった。それまで王国、ライヒでは十数年に一度の不漁が発生していたので砂上鰯ザルディーネの突然の大量発生は、降って湧いた幸運だった。それを青年はあの巨大な生き物から逃げてきたからだと説明したのだ。ついに、王の勅令により巨影の存在を確かめる一団が組織され、その夜、大量の砂上そりザント・モービルが西に向かった。

 

そして、その存在が認められたのだった。

 

その巨大な生物は極東のという生物に似ていると、後日王立生物研究所の学者が民衆の前で説明した。そして、その生物をグルクと、”幸せ”を意味する”グルク”と名付けた。


 砂上鰯ザルディーネの豊漁により人々は文字通り幸せを享受した。そしてそれが永遠に続くことを望んだ。しかしそんなはずがなく、繁栄はいつしか終焉を迎える。


 そしてそれにいち早く気づいたのも父だった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る