犬を操る猫

同じ地域を3日回れば、大抵の特徴は掴めてくるものだ。町中の雰囲気、空気、通りを闊歩する生き物の息遣い。住処の配置、外出や帰宅のタイミング。得手不得手は誰にでもあるわけで、好きな地域と苦手な地域もある。本日も地道に、社会人を演じるべく、歩くのだ。



縄で縛られた子犬は、親の言い付けを守ろうと懸命に吠えている。


「まあまあ、落ち着いて」


子犬を相手にしてもなんともならないが、印象を悪くしては元も子もない。取引先のボスは別であるが、その下っ端に悪く思われようならば、少なからず悪影響を与えてしまいかねない。なんとか穏便にっと。


「…そうですか。それでは改めてお伺いしますので」


退散しようと振り返ろうとした矢先、ふと違和感を感じる。

ん?中で動きが…?

その縄はどこか小屋にでも縛られているのかと思ったが、そうではなかった。

猫…が、その縄を持っていた。

ニヤリと微笑み、ニャーニャーと子犬を操っている。当の子犬はなんとも思う素振りもせず、忠実にその指示に従っている。

会社の犬として、命令のままに歩き続けるか。はたまた、自分の存在意義を全く知らされず、操られるままに飼われるか。


…どうでもいい。

次に行くか。私は今日も一歩ずつ歩いている。

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