第1幕:三日月の夜

一週間ぶりにミステリーシアターへと踏み入れる。

今回は神楽がいるため、特に不安なところなどは何もなかった。

意外と俺はこの幼馴染みを信頼している事を今さらながらに知る。

いや、ただ単にこれから起こる危険な雰囲気から逃げたかっただけなのかもしれない。


「ようこそ、お待ちしておりました映太様」


そう、入るなり榊が俺たちを出迎えた。

榊は隣にいる神楽に視線を向けると、状況を説明するために、事情を話す。

俺たちの話を聞いた榊は納得したようでホームズと話をするため、1度奥へはけていった。


「へぇ、ここが映太の言っていたミステリーシアターねぇ。

見た目の割にはすごく豪華で綺麗だわ。

この天才美女名探偵には似合い過ぎているわね」


最後の方は無視していたが、確かに見た目の割にはとても豪華で綺麗である。

そう言えば、どうしてこんな中身は良いのに外見は悪くしているのだろう?

後で榊が来た時にでも問いたい。


しばらくすると、榊が戻ってきた。


「今、ホームズ様に意見を聞いたところ良いそうです。

ホームズには助手であるワトソンが必要だろう、と。

それでは、ご案内します。どうぞこちらへ」


そう言うと、榊は奥のシアタールームへと俺たちを案内するのであった。

自分が俺の助手であることに不服そうな顔をしていた神楽だが、今だけはやめろと目線で言うと何とか堪えてくれたようで安心する。








シアタールームへ行くと、以前と変わらず豪奢な装飾がいたる所に施されており、そのまま入ることに躊躇しそうなほどである。


しかし、今はそう言ってられないので努めて気にしないように入る。

神楽の方は特に気にする様子もなくスタスタと先を歩いている。

こういう時、少し羨ましい。


そして、以前座った1番前の席へと歩を進め座ると、その隣の席に神楽が座る。

神楽もやっとまじまじと周りを見渡していたが、榊が遅れて俺たちの元へ来るとすぐ視線を移す。


「それでは、今回の説明を致しましょう。

今回お2人に見て頂く映画は最近上映が始まったばかりの『狼たちのおおかみたちのよる』でございます。」


その映画名を聞いた神楽は驚き、話を遮って


「何!?知っっているぞ!事前に番宣していた映像と違って全くつまらない映画だと言って大不評の嵐の中にある映画ではないか!」


そう言うと榊も頷き、話を進める。


「おや、ご存知でしたか。今、不思議な噂が回っている映画でございまして、それは本来必要のない謎が関わっているため違う映画になってしまっているのです。

その謎を無事解ければ本来の映画に戻り、大好評の映画になることでしょう。

ぜひお2人のお力をお借りしたいのです。

どうか、よろしくお願い致します」


そう言うと、深々とお辞儀をした。

俺たちはいたたまれなくなり、しばらく考えていたがお互い顔を合わせると榊に向かって頷いた。


「勿論よ!この私がささっと解決して無事に元通りにしてみせよう!安心して任せたまえ!」


神楽は胸を張ってそう答えたが、俺が間髪入れずに訂正する。


「おい、俺を忘れるなよ!

俺だってこの映画を救いたいんだよ、この謎は映画に失礼すぎる。俺たちで救うぞ、神楽」


珍しくやる気に満ちた俺に驚いたが、神楽は笑顔で「勿論だ!」と言った。


そして、榊は俺たちにお礼を述べると準備のためシアタールームを出る。

しばらくすると証明が落ち、スクリーンがぼんやりと浮かび上がる。


「やあ、諸君!君たちの勇気を我輩は心から讃えよう!そんな君たちの力になれるよう我輩も全力を尽くしてバックアップする、何なりと言ってくれ!」


そうスクリーンに文字が浮かび上がる。

俺たちは読み上げると、途端に以前感じたような脱力感に襲われそのまま眠りに落ちた。







再び目が覚めると俺たちは知らないところに立っていた。

周りはまるで江戸時代にタイムスリップしたかのような街並みをしている。

俺たちの服装も変わり、俺は袴姿で帯刀しており、神楽は町娘の姿をしている。

時間は夜だったため、誰も街を歩く者はいなかった。


「えっ、ええ!?何これ!何で私がこんな格好してるわけぇ!?!?」


と俺の気持ちを代弁するかのように大声で驚いていた。

そして、台詞を奪われたため口を開けたまま何も言えないでいると突然ピーッと高い笛の音が聞こえる。

俺は慌てて神楽の口を手で塞ぎ、暴れる神楽も引きずり姿を隠す。


姿を隠し、様子を見るとバタバタと複数の地面を蹴る音が聞こえてきた。

男たちはみな同じような格好をしており、先頭を歩いていたリーダー格の男は手に不思議な形をしたものを持っていた。


「確かこちらから声が聞こえたようだが、何もないではないか。お主、聞き間違えではあるまいな?」

「いえ、そのようなことはありますまい。拙者耳にかけてはちょいと自信があるものでして」

「では、逃げられたか。

この暗闇だ遠くへは逃げておるまい。

付近を少し見回してから戻ろうではないか。

まさか近頃を騒がせておる義賊ではあるまい、奴らはこんな夜に現れることもないだろうからな…」


そうリーダー格の男と脇に侍ていた男の会話を聞いていた俺たちは足音を忍ばせてその場を後にした。

しばらく歩くと、俺たちは緊張の糸を解し2人で息を吐く。


「あ〜、ビックリした!殺されるかと思った!危なかったね!」


神楽は興奮冷めやらぬ様子でそう言うと、


「俺は本当に心臓が止まるかと思ったよ、元はと言えばお前の声がでかすぎるからそうなったんだぞ。少し声を抑えろ」


俺はまだ近くにいないか周囲に注意を向けていたため、静かにするように神楽に言う。

しかし、周りは静かで何も起きる気配はない。


俺たちは気を緩め、少し夜の町を散策していると明かりが見えてきた。

決して小さくはない屋敷である。

まだ家主は眠っていないようで、泊めてくれないか頼みに行くことにする。


幸い、今晩の駄賃を払えば泊めてくれると言うので泊めて貰うことにする。

後々、金を持っていないことに気づいた俺は袴を調べたが何といくらか小銭が入っていたのでそれで払うことにした。


その泊めてくれた家主の名は半蔵と言い、妻のお菊、息子の権太の3人で暮らしているようである。

俺たちは先ほど奉行たちの話に出てきた義賊について話を聞くことにした。


「あの、半蔵さん。実は俺たちはついこないだこの町に来たばかりで何も知らないんだ。

さっき聞いた義賊とやらの話を詳しく聞きたいんだが教えては貰えないか?」


「なんだいお前さんたち、何も知らずにこの町に来たんか。実はな、近頃町に突然義賊が現れ、お偉いさんたちの屋敷を襲って不当な金を俺たちのような平民に流してくれるんだ。確か首領の名前が守屋という奴らしいが他はさっぱりだ。まぁ、明日にでも町に出て色々聞いてみなされ。」


そう言うと、さっさと寝床の用意をして本人たちは寝てしまった。

俺たちも仕方ないので寝ることにしたのである。





*****





夜深く、寝静まった屋敷に動く影があった。

その影は3つあり、1つの部屋へと集まる。


「誰も起きている者はいないな?」


部屋の中から声が聞こえ、小声で誰もいない事を伝えると、影の1つは音を立てずに襖を開け3つの影が部屋の中へと消えていく。


「よく来た。半蔵、お菊、権太」


そう部屋の主は言うと、3つの影が蝋燭の明かりに照らされ顔が浮き上がった。

先ほど、とある不思議な2人組を屋敷に招き入れた男たちである。


「いえいえ、こちらこそようこそおいでくださいました守屋様。

貴方様のおかげで我々が自由に動けます。

時が熟せば、義賊として皆の前に出ることもなくなる事でしょう。

無事、新しい大名としてこの町を治めることが出来まする。」


と半蔵は言うと、守屋は薄ら笑いを浮かべた。

「良いのである。我輩の目的はそなたたちの目的達成であるからな。その調子で無事達成させよ。ところで、今晩泊めた不思議な2人組とはどのような者たちか?」


「はっ、勿論必ず達成してみせましょうぞ。

あぁ、あの奴らですか、何でも今日この町に入ったばかりであるのに我らの事を知らぬのです。金は結構持っているようでして何とも不思議な奴らです。まぁ、明日にでも出ていきますよ、我らも明日には新しい居を構える事になっておる故、気にする必要はないかと。」


「そなたがそう言うならば気にしない事にしよう。だが、気をつけるのだ。

足元をすくわれては全てが水の泡になる。

さて、我輩はそろそろお暇する。また会おう、次は無事達成した時に来る。さらばだ。」


そう言うと、守屋は立ち上がり部屋を立ち去った。


その場に留まったのはあの3人だけである。

次に会うのは新月の日。その日に必ず達成させる。

それぞれ胸の内で、改めて決意を固めるのであった。

そんな3人の様子を見守るように、見事な三日月が屋敷を照らしていたのであった。

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ようこそ、ミステリーシアターへ! 菓詩 ゆきな @yuki_usagi_oO

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