砂上神楽、参上す。

俺は、そんな事のあった次の日。

気だるげに学校へと向かう。


普段は全力で映画に費やす俺だが、普段はそのへんのどこにでもいる高校2年生なのであるため学校へ通う。

公立高校に通い、平凡な成績を取り、取り柄もない影の薄い男のため、登校中に話しかける奴は物好きしかいない。


「おっはよー!ねえねえねえ!!」

その物好きが俺の背後からいきなり現れる。

「はよ、なんだよ眠いから早くしろ」

眠かった俺は適当にあしらうとその物好きは俺の対応に頬を膨らます。


「何よー!こーんな美人で素晴らしい能力を持ち、世界を救うために生まれたこの砂上さじょう 神楽かぐら様に向かってその態度は!」


その物好きは中二病に侵された高校2年生の痛いやつだった。


黙っていれば普通に可愛くて美人なのに、この中二病のせいで台無しである。


艶やかな黒髪を持ち、全体的に細くモデル体型の彼女は頭脳明晰であり容姿端麗の何でもできる奴だった。ちなみに小学からの腐れ縁で幼馴染みでもある。


「頭が良すぎると重度の中二病になるのか?」


皮肉を込めて言ってやるとますますご機嫌が斜めになっていき、やり過ぎると後々めんどくさいので普通に構ってあげることにした。


「はいはい、嘘だって。話か何かあるのか?」


と今度は優しく話しかけてやると、鋭い視線が少し和らぎ口調に棘があるものの話してくれるようだった。


「許さん許さん!映太になんか言ってやるものか!

他に話しかけてくれる女子も友達もいない映太に話しかけるのは私くらいしかいないのよ?

少しは丁寧に扱いなさい!そして忠誠を誓いなさい」


ボロクソ言われた。地味に傷つく。

だが、怒らせたのは俺なので言われた事は水に流してやることにする。

俺の方が大人だからだ。決して認めたわけではない。


「はいはい、俺が悪かったよ。で、何の話だ?」


「素直にそう謝れば良いのよ!まぁ良いわ、この最高最強の美女が話してあげる。

泣いてこの私に感謝なさい。」


俺が素直に認めると調子に乗って薄い胸元を張って偉そうに言ってきたのである。

こういう時の神楽はチョロい。


「ねね、知ってる?この間映画館に行ったんだけど、変な映画があって不評だったの。

その映画はCMとかで番宣してた内容と全く違うみたいで、まるで別の映画になってるそうよ」


神楽が言った言葉に耳を疑う。

俺が昨日起きた出来事でも言ってたではないか。

不自然な謎がその映画にある、と。

俺は聞いて確信した。

これが正しくその映画なのだと。


「そうなのか…、じゃあ俺も見てみるよ。この目で確かめたい」


そう言うと、神楽は不思議そうに俺の顔を見て、


「何か映太って変わった?すごく追い詰められたような顔してるけど?」


と言われた俺は図星と言った顔をしてしまった。

すると、神楽は納得したようにニヤニヤとした顔で


「何だい何だい?何か秘密を抱えてるのかな?この超絶美人名探偵に全て話してみせなさい!まるっと解決してみせるわ!」


と言ってきたので、しばらく昨日の事を言おうか迷っていると学校に着いてしまったので、


「別に何もねぇよ、てか、どこも合ってるとこないじゃんか!超絶美人でも名探偵でもなくてただの中二病だろうが!」


と冷たくあしらうとさっさと自分の靴箱へ行き、教室へ向かう。

まぁ、神楽も同じクラスなのだが、教室に行けば意外と女子に話しかけられる奴なので俺に話しかけてはこないだろう。


その後、特に何もなく放課後を迎えた。

俺は部活動に所属していないため、さっさと学校を後にする。

ちなみに、神楽はあれで華道部に所属していた。


本人曰く、入部した理由が

「この高貴な私が嗜むには一番適している部活だと思うわ!ふふ、ちょうど良いから敵を倒すために新しい開発でもしようかしら」


といったくだらない理由である。

俺は呆れたが何も言わないでおくことにした。


学校を出ると、背後から人の気配がした。

そのため振り向くと、そこには神楽がいた。

今日は華道部の部活があるはずだが、抜けてきたらしい。


「朝のやつ、ちゃんと説明してもらうわよ!

この私を馬鹿にしたまま逃すと思ってるの?

洗いざらい話してもらうからね!」


ご立腹であった。校門前に仁王立ちである。

他にも校門から出てくる生徒たちから痛い視線を受けて俺を睨んでいる。

俺はいたたまれなくなり、場所を変えて話すことにした。


手頃な喫茶店を見つけると、中に入る。

店員に案内され、席に着くと神楽は足を組む。

そして、窓を見て膨れっ面をするのだ。

これは暗に奢れと言っているようなものである。


俺はその空気に負け、仕方なくコーヒーを二つ頼むと話をしようと声をかける。


「あの、神楽、さん?怒ってらっしゃいます、よね?」


こういう時は低頭で行くのがセオリーである。

すると、神楽は口を開く。


「ええ、怒っているわ。このまま放置するとやがて世界が終焉を迎えてしまうわね!

貴方がちゃあんと私に説明してくれたらこんなことにはならなかったのに残念だわ」


終始言葉に棘があったが、それでも怒っている理由が思っていたのとは違うため胸を撫で下ろした。

何だかんだ言って気を遣ってくれる優しい良い奴なのだ。

その優しさに今回は素直に甘えようと思う。


「いや、ほんとすまなかった。世界を終わらすのは止めてくれ。わかったよ、ちゃんと言うから聞いても、驚いて俺の頭を疑うだけだと思うぞ?」


「わかってるなら良いのよ。今回は見逃してあげるわ。別に良いわよ、映太は嘘なんて言わないし。ちゃんと説明して頂戴」


神楽は運ばれてきたコーヒーを口にしながらそう言った。

彼女にしては珍しく俺を信じてくれる事を言ったのである。

明日は雷雨が降りそうだと思いながら、昨日の出来事を話す。


彼女は案の定驚きを隠さなかった。

コーヒーを俺にぶちまけたのが分かりやすすぎるくらい良い反応だった。

いくら頭脳明晰、容姿端麗で幼馴染みでも汚いものは汚い。


慌ててハンカチを出して俺の顔を拭いていたが、混乱したままである。

徐々に落ち着きを取り戻したところで、


「そ、そんな事が合ったのね、驚きだわ。

というか、何で早く言わないのよ!

私だってホームズに会いたいわ!!」


目をキラキラさせながら言うのである。

中二病な彼女であるから、興味が出るのも当たり前だった。

だから、俺は言いたくなかったのだ。


「言ったら絶対そう言うと思ったんだよ。

俺だって突然の事で未だに現実かどうかわかってないんだからな。

逆に頭おかしいって言われて夢にした方がマシだよ」


と呆れながら言うと彼女は怒り、


「何よ!だからと言って言わないのはどうかと思うわ!私だって映太の力になるくらい安いものよ!次からちゃんと言ってよね!」


と言われてしまったのでもう次から知らんプリは出来ないと悟る。

俺はため息をついたが、少し嬉しかった。

自分以外の誰かに話して信じてくれたのだから幸運な事である。


「よし、私も行くわ!その一週間後に行くんでしょう?私も連れて行きなさい!

映太より先にその謎を解いてあげるわ!」


と突然宣言されたのである。

俺は驚いたが、すぐにやめるよう促す。


「はぁ!?何でついてくるんだよ!

やめろよ、これは俺だけに言われた事だぞ?」


「何で?別に映太だけで来てなんて言ってないんでしょう?じゃあ別に私が行っても良いじゃない!何の問題もないわ」


正論であった。図星をさされた俺は何も言えなくなり結局、同行を許してしまうのであった。


そして時間は流れ、遂にその一週間後になる。

俺と神楽の二人は一週間前にきた廃れた映画館の前にいる。


空は運悪く曇りでどんよりとしており、薄暗く不気味な様子が漂っていた。

これから起きる出来事の難しさを表しているようである。


俺と神楽は引き込まれるように中に入って行った。

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