ようこそ、ミステリーシアターへ!

菓詩 ゆきな

シャーロック・ホームズとの邂逅

俺の名前は久留須くるす 映太えいた

普通よりちょっと劣る高校2年生。

趣味は映画観賞と読書。

これといった特徴のない平均以下の顔をしている。


小さい頃から俺は、映画観賞が大好きだった。

生まれて初めて見た映画がとても素晴らしく、感動した事から始まる。

今では、新しい映画が出れば上映初日に必ず映画館で見るほど映画をこよなく愛している。


俺は今日も新しい映画が無いかとふらりと町を歩いていた。

行きつけの映画館でも良いのだが、気分転換で新しい所で見ようと決めていたからである。


そして、ある1本暗い道に入る。

何故か知らないがとても気になった。

そこには寂れた古い映画館がひっそりとあるのであった。

看板には「ミステリーシアター」とある。


俺は興味がてら入ることにする。

何もやっていなければさっさと帰る予定だった。


1歩入ると埃まみれのホールがあるだけで誰もいない。

「誰かいませんか!」

そうよく響くように声を出して言っても何の反応も帰ってこなかった。


仕方ない、帰るか。

そう思い、踵を返そうとした瞬間。

奥のシアタールームから光るものがあった。


俺は気になり、シアタールームへと足を運ぶ。

椅子はあまり多くなかったが、埃を被り所々から綿が出ている状態だった。


きっと、あまりに客が入らなくて閉館したのだろう。

そう思いながら俺はシアタールームをくまなく見ると、光った原因の物を見つける。

ただのガラスの破片と思われるものであった。


興が冷めた俺は、不気味なこの場を一刻も早く立ち去りたかった。

しかし、立ち去ろうとした瞬間突然シアターに文字が現れる。


「ようこそ!ミステリーシアターへ!」


その一文が現れ、驚いて何も言えないでいると、


「さあ、早く席に着きたまえ!これから君をミステリーシアターを案内しよう!」


と新たに文が現れたため、俺は言われるがまま、一番前の席へ座る。


座ると共に俺は意識を失い、何処か遠い場所へ意識を連れて行かれたのだった。



* * *



目が覚めると、俺は知らない場所にいた。


書斎と思わしき部屋には壁一面に本棚があり、入りきらなかった本は床に山積みで置かれてある。


そして、豪華な机の前にある人物が立っていた。

まるで探偵のような出で立ちで、シャーロック・ホームズを思わせる人であった。


彼は口に加えた高そうな煙草を吸うのを止め、俺へと意識を向ける。


「やあ!初めまして!我輩はである!」


まさかのシャーロック・ホームズ本人であった。

見た目は俺の想像するホームズ像であったがまさか本人だと思わず、絶句する。


「おや?まだ理解していないようだね、ところで君の名前を伺いたいのだが」


そう言われ、俺はやっと意識が追いつき続けて質問した。


「あの、ここは何処ですか。俺、シアタールームにいたはずなんですけど」


するとホームズは顔をしかめ、

「何だ、我輩の質問を無視するのか少年。先に名乗ったのだ、名前を聞いても良かろう?」


と言うので、名乗らない限りは質問に答える気など無さそうなので、


「すみません、俺の名前は久留須 映太です。初めましてホームズさん」


と名乗ったのである。

ホームズはやっと名乗ったのかという顔で、


「映太と呼ばせてもらおう。我輩の事はホームズでも何でも好きなように呼ぶが良い。さて、質問に答えようか。」


と俺の質問に答えてくれるようで、


「ありがとうございます、では、ここは何処なのか教えてください。そして、何故俺がここにいるのかも」


と再び質問をすると、ホームズは


「ここは我輩の秘密の書斎。映太を呼んだのは紛れもないこの我輩である。」


と、さらりと場所と俺を呼んだ事を言ったのである。


「え、ええ!?何で俺を呼んだんですか!」


と驚きを隠せないまま聞くと


「映太の事はシアターの中であるこちら側から知っていた。我輩はどうしても会って話してみたかったのだ。それでここに呼んだのである」


ホームズはそう言うと続けて、


「ちなみに、もう話す時間は残り少ない。手短に言おう。映太よ、我輩の代わりに映画のミステリーを解いてくれ。少年なら必ずやれる。我輩の映画を見て、目を輝かせていた映太ならば――」


と言うので、俺は慌ててホームズに、


「ちょ、ちょっと待ってください!俺謎解きなんてやったことないし、何よりどうやって何の謎を解くのですか!?」と質問すると、


「映画の中に隠れている不自然な謎を解いて映画を正しく助けてくれ。映太にしか出来ぬ。我輩にはもう時間が無いのだ。頼んだぞ映太」


と言い残し、俺はまた意識を失った。




* * *



再び飛び起きるように目を覚めると、シアタールームに戻っていたのだが雰囲気がまるで違っていたのである。


なにより座っていた椅子は新品同様のふかふかさと豪華さを誇っており、天井にはシャンデリアがあった。


相変わらず客席には誰一人いなかったのだが、ホールへ戻ると一人見知らぬ人物がいたのである。


初老と思われるその人は執事服みたいな服を着ており、受付に佇んでいる。


ちなみに、ホールの方も見違えるように美しく新しく変わっていた。


俺は、その人に事情を聞くべく近づくと俺の存在に気づいたのか深くお辞儀をして


「久留須 映太様ですね。シャーロック・ホームズ様より手助けとなるよう言付けを預かったさかきと申す者です。以後お見知り置きを」


そう言ったのである。

俺は再び驚かせられたのだが、事情を聞くべく質問をする。


「あの榊さん。僕はそのホームズさんからよくわからないまま突然呼ばれ、突然帰ってきたわけなのですが―」


すると榊は質問に答えるべく説明を始める。


「ホームズ様からは説明をするようにも申し付けられております。では、始めから説明しましょう。

これから、映太様には映画をご覧になって頂きます。

そして、上映されている映画の頂きます。

その映画は不自然な謎が起きておりまして、謎を映太様に解決して頂くということでございます。」


と簡単に説明され驚きのあまりしばらく何も言えなかった。


俺が映画の中に入って謎を解く?

待て、どうやって中に入るんだ?

そもそもそれこそホームズさんの仕事ではないのか?


疑問がふつふつと沸いてきて考えていると榊が


「混乱なさるのも当然です。

ですが、ホームズ様を責めないでください。

あの方にも事情があって出来ないのです」


とホームズが出来ない理由を曖昧に言うと


「それに、ホームズ様は映太様をとても期待しておりました。

映太様なら必ずやり遂げられる、と。

何かありましたらすぐにこの榊に何なりと申し付けくださいませ。」


と恭しく頭を垂れると、俺は慌てて


「そんなそんな!頭を上げてください!

俺はそんな期待するような人間じゃないですよ!

そもそも、何で俺なんですか?」


と質問を重ねると榊はゆっくりとした口調で


「それはまた別の機会に話しましょう。

申し訳ないのですが、そろそろ閉館のお時間です。

また次回お会いしましょう。

お待ちしております」


と言い、深々とお辞儀をしてから閉館の準備をするため奥へはけていった。

結局、質問に答えず閉館してしまったのである。

最初から最後まであちらのペースに振り回されてばかりいて何も得られなかった。


次は一週間後に来て欲しいとのことである。


次は何が何でも聞き出そう。

そう心に決め、自宅に帰ったのである。


この時の俺は何も知らなかった。

これから起きる数々の難事件への謎解きとロマンスという修羅場に板挟みにされることを――。


* * *


「榊、そちらは何の問題もないか」


モニター越しに映るホームズに榊は


「ええ、大丈夫です旦那様。余計な事は何一つ漏らしておりません」


と満足げに答えると、ホームズも満足したようで


「そうか、なら良い。今はまだそのまま様子を見ようではないか。一週間後、彼に手紙を送ってくれたまえ」


「承知いたしました。全てこの榊にお任せくださいませ」


そう言うとモニターを消し、椅子の背にもたれかかる。


これで良かったのか

一抹の不安が頭を過ったが、

彼の事だ大丈夫だろう

と納得させ安堵の息を漏らす。


まだまだ問題は山積みに増えていくだろうが、傍に榊がいる。

何かあれば彼が知恵を授けてくれるだろう。

榊への信頼あるからこそ、任せられるのであった。


「ひとまず、最初の問題はクリアしたようである」


と呟き、再び煙草を吸うのであった。

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