第42話・仄暗い者2
そこから一ヶ月、この男とは一緒になれない、死んで欲しい、そんな考えばかりが頭の中を支配していた。より暗く、
その夜、一旦深い眠りから目覚めた彼に食事を用意してやり、食器を洗っている最中に再び寝た男。洗い物を終えた彼女は、ベッドの脇に立って自分の中から全ての感情がスーッと消えていくのを漠然と感じながら、彼の喉元や首を無表情で見つめていた。包丁で切るのがいいか、首を
人を殺した、婚約者を殺した。一瞬、これで自由になれると彼女は思った。こんな男を想っていた自分は、なんと愚かだったのか、殺す事を選んだ自分のなんと愚かなことか。ふと正気を取り戻した彼女は、自分の家族を、殺人犯の家族にしてしまう事に気づいた。家族に散々迷惑をかけてきたと思っている彼女は、何としても家族を巻き込みたくなかった。果物ナイフを片手に立ち尽くす彼女の背後から突然、低く落ち着いた男性の声がする。
「これから、どうする?」
人間だったモノと自分しかいないはずの部屋で発された声に、彼女は勢いよく振り返った。そこに居たのは黒猫、少し
「お前の望みは何だ?」
「家族、家族を、巻き込みたくない」
自分が死んだところで、この状況なら家族が殺人犯の身内となる事には変わりない。黒猫は小さな溜息を吐く、積もり積もった憎悪と恨み、孤独と闇に
願いを叶えて
「俺がお前の、その願いを叶えてやろうか?」
「─…どうやって…?」
「眠っている間に〝婚約者〟は出ていった。そして帰らなかった、だから捜索届けを警察に出す」
「でも、血が…─」
「俺なら、そんなモノどうにでも出来る。その新鮮な死骸を対価に、お前の願いを叶えてやる」
彼女は、黒猫ことセラフィーノ・チネッリと契約を結んだ。一年間、婚約者を殺した部屋に住み続け、他の場所へ黒猫と共に引越した。数十年、二人は一緒に暮らしていたが、ある日、彼女は[公園へ散歩に行ってくる]と言い残して帰って来なかった。
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