第26話・魔物の井戸端会議

 少年は、うなずいた二人を見て安堵あんどの表情を浮かべると、ホッと息を吐いた。この少年、実は十数年前に仮死状態でストラーナの研究所へ運ばれ生体実験に使われた魔物だった。なので、ストラーナは彼を見たことがあるが、少年がストラーナを見るのは初めてだ。今は人型であるが、不老不死種族の中でも非常に珍しい獣型けものがた鬼人きじんだった為、様々な世界ページを旅していたせかいあるじの目にまり保護された。


 彼は実験成功後に、殺戮さつりく生業なりわいとする喰闇鬼くろやぎ一族に預けられ、三年前にあるじの命令によって、親友と共にこの世界ページへやって来た。少年と長谷寺は、よく仕事先で鉢合はちあわせ、める事もあったが、わりと短期間でなったのだ。一先ず落ち着いたところで、少年が長谷寺の腕を持ち上げてユラユラと振る。


「それで?コレは何なんですか?」


「あぁっ、そうだったね。ソレ、紫陽花くん専用の制御装置なんだよね」


「制御?」


「いつ何処どこで人型じゃなくなっても気がれたりしない設計にしたつもりだけど、まだ試作品だから、またちゃんとしたの持ってくるねー」


「あ、なるほど。紫陽花、忘れっぽいですもんね」


 少年とストラーナの話に付いていけず、長谷寺は桜色の唇に人差し指を押し当てて首をかしげていた。ストラーナがアクセサリー型装置の説明を、できるだけ分かりやすく説明してやると、ようやく彼も、店内で自らの指と手首にめた物が何だったのか理解するに至れたらしい。便利な物を貰ったと、大変な喜びようだ。他の神々なら、自分が内包するものをコントロールする事など容易にできるのだが、彼の場合は忘れっぽい上に自分が司るモノ膨大ぼうだいすぎて、他の諸々もろもろおろそかになる。そして結局、いつも大惨事になってしまうのだ。


「誠くん!ありがとーっ!これで楽できるーっ!!」


「どういたしまして、僕はまだ他の用事ありますから、今回はこれで帰りますよー。黒腕くろうでくんも、またねー」


「ばいばーい!」


「さいならー」


 嬉しそうに、ピョンピョンとねながら礼を言う長谷寺に、苦笑を浮かべて一言別れの言葉を残すと、ストラーナは彼と少年に手をヒラヒラ振り闇の中へ消えていった。にもかくにも、無事に装置の説明を聞けた長谷寺と、[いつ見ても綺麗なヒトだ]などと思いつつボーッと彼を見ていた少年・黒腕くろうで 飛鳥あすかは、店のドアが開いてカランッとすずの鳴る音でわれに返る。店内から顔を出したのは、中々戻ってこない長谷寺を心配した迅だった。彼は、長谷寺と、常連の黒腕を視界に入れて口を開く。


「…ストラーナは」


「帰ったよーっ!これもね、説明してくれた!楽になるヤツーッ!」


「紫陽花、とりあえず中へ戻りましょ」


「はーいっ」


 黒腕が長谷寺の背を押して、店内へ入ってゆく。二人がどんな関係なのか、それを全く知らない迅は、自分の中にあるモヤモヤとした気持ちに知らないフリをして、カウンター内へ戻った。まだ彼には、何が怖いのかすら分からなかった、長谷寺に関することで起こる心の中のモヤモヤとする何かを認めたら、自分の中の何処どこのなにが変わるのか、そうボンヤリ思っている事すら明確には分かっていないのだ。


「そういえば紫陽花、千歳さんと石川さんのクラスの担任なんですねー、なんか今日鬼ごっこしてたでしょ」


「千歳…あ、白夜くんか!で、石川…?あ!泰地くんか!そうなんだよねー、あとね、武術のセンセー、難しくて面倒だから、明日から美術の先生なんだー」


 色々と突っ込みどころはあるが、迅や千歳、透や石川にとっては分かりにくい話し方でも、気心きごころの知れた黒腕相手なら通じるので問題ない。店の最奥から長谷寺の隣へ席を移した彼は、ロングカクテルをかたむけながら楽しそうに世間話をしていた。この二人、単純な思考回路を持っている事も例に上げられるが、殺しにかけては互いの心を読んでいるかのような動きをするほど気が合う。





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