第25話・三人の魔物

 普段、彼はあまり故郷から出ることがない。大体は、要塞ようさいのようなどデカい研究所にこもって、引き千切られたり切り落とされた自身の頭部たちと話し合いながら、あやしげな薬品や機械などを作っている。


まことくんじゃーんっ!ナニナニ?キミが来るなんてなんかあったのー?」


 そう言いながら、友人ストラーナの思いがけない登場に、長谷寺はパッと立ち上がって彼の元まで行くと、嬉しそうな笑みを浮かべて挨拶の抱擁ほうようをした。それにこたえる形で、ストラーナも長谷寺の背に腕を回すと、その肩をポンポンと軽く叩く。そして一つ息を吐いて苦笑し、血だらけの白衣のポケットから四つのアクセサリーを取り出して彼に見せた。


「もー…紫陽花あじさいくんのせいですよ?めちゃくちゃかされて作ったんですからー」


 ストラーナの手には、指輪が二つ、美しい金細工のブレスレットが二つあった。それぞれ、神気・邪気・妖気・闘気を体外たいがいへ放出させない機能を搭載とうさいしたアクセサリー型の長谷寺専用装置だ。あの、長谷寺が本来の姿へと戻った瞬間、この世界ページの文脈にかすかな歪みが生まれた。それを瞬時に悟ったせかいあるじが、ストラーナに向けて即刻そっこく対応するようにと命令を下したのだ。


 神域しんいき級の魔物専用の抑制よくせい装置など作った経験がないストラーナは、自身の頭部たちの中でも最古参の頭部数千が収められている部屋へと猛ダッシュしていた。部屋へ入るなり、あーでもないこーでもないと話し合いを始め、魔導機械都市ラザエルから魔導技能士を呼び出して創意工夫すること十数分、あっという間に四つの装置を作成完了し、まだ試作品の段階ではあるが、とにかくかすかにとはいえ、一瞬で文脈を歪めるほどの気の放出はおさえられる物を持って、この世界ページへと届けに来たのだった。長谷寺は、装置を見詰めながら目をキラキラと輝かせている。


「すごーいっ!キレーッ!!これ貰ってイイのっ?」


[イイのっ?]と聞きながら、ストラーナの手の上にある装置を次々と取っていき、人差し指と中指、左右の手首に装置をめる。それぞれの部位に付けられたアクセサリー型の装置は、ピタリと肌に吸着きゅうちゃくされた。手首や指の装置を見てニコニコとしている長谷寺の様子に、ようやく迅がストラーナへいぶかしげな視線を向けながら口を開く。


「ストラーナ、長谷寺に、何を渡した」


「ん?おや、酒城くん五年ぶりかな?これはね、忘れっぽい紫陽花くんの為だけに作った、神い──」


「紫陽花ぃいいいいいぃぃっ!!」


 ストラーナが、店に入ってすぐの場所で大暴露だいばくろしそうになったのを止めたのは、店の最奥で酒を飲んでいた黒髪黒眼の比較的長身の少年だった。ガタッと腰掛けていた椅子から立ち上がった少年は、二人の腕をつかみ三人で店から出た。ドアから少し離れた場所で掴んでいた手を放すと、肩を落として溜息ためいきを吐いた少年。それを見た長谷寺が首をかしげていると、何かに気づいて驚いたように声を上げた。


「あっ!飛鳥ちゃんだーっ!!」


「うおっ…久しぶりでーす、ストラーナは…会うのは初めましてですね。あなた人間がいる中で[神域級]って言おうとしたでしょう、ダメですよ、力が欲しい人間が寄ってきますから、面倒事は嫌でしょ?二人とも」


 そう言われた二人は、とりあえず想像してみた。長谷寺は、迅に[誰彼だれかれかまわず殺すな]という風に言われて了承した、約束をした。もしも、うじゃうじゃと自分に人間が寄ってくれば、彼の場合、皆殺しにする以外の選択肢がなくなる。長谷寺は、迅を落胆らくたんさせたくなかったし、困らせたくもない。ストラーナは、長谷寺が大暴走した挙句あげくその皺寄しわよせが、際限さいげんなく自分に降り掛かって来るだろう事が容易に分かってしまった。結果、二人してシッカリと頷く。





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