第27話・凶悪な二人

 人型状態の黒腕くろうで 飛鳥あすか、この世界ページに存在する人間や亜型人形あがたひとなりは、他の世界ページことなり平均身長180〜200cmの者が多い傾向にあり、それを含めると出身の世界ページは違うモノの、彼にはコレといった特徴がない事になる。だが、中身に問題がある。息をする様に躊躇ちゅうちょなく人を殺す、血にまみれた快楽殺人者、変装の達人でもあり、暗黒街付近では要警戒人物に指定され、組織によっては賞金首として指定されている曲者くせものだ。黒腕が快楽殺人者である以外のことを知らないのは、この店内では長谷寺だけだったが、誰もが知らない彼の本来の姿を知っている。


「そうだ、今日の殺し中々に気持ち良かったですよー、さすが紫陽花っ!」


「そうっ!?」


「首が落ちる瞬間も、血の雨も、コンクリと電柱まとめて斬れてたのも見応みごたえありました!あー、良かったなぁ…」


 誰もが知る残酷な殺人鬼が、ピッカピカの新参者を、ウットリとした表情を浮かべて、殺しの件で褒めちぎっている。黒腕と長谷寺以外の、酒城兄弟も含めた店内の全員の顔は、ザーッと血の気が引いていく音が聞こえそうなほど蒼白そうはくになっていた。迅も透も、血塗ちまみれになった格好で帰ってきた長谷寺は見たが、まさかそんな事を仕出しでかしていたとは思いも寄らなかった。黒腕が、彼の手を取って両手でにぎり込んで微笑んだ。


「紫陽花がココに来てくれて、俺すっごく嬉しいです、歓迎のプレゼントあげますねっ」


「わぁーっ!なになにっ?」


 彼は、不老の身になるよりもずっと幼い頃から長谷寺に憧れていた、無邪気で可愛らしく見えるのに時に無情で、圧倒的な強さを誇る魔物として。とても嬉しそうな笑みを浮かべる長谷寺の手に、黒腕は携帯端末用の小さなストラップを置いた。一瞬だけ目を見開くと、チリンッと美しい鈴の音を鳴らす可愛らしい猫のストラップをジッと見詰め、彼は、ふんわりと花がほころぶようにんで、いそいそと携帯端末に取付ける。実は長谷寺、昔から可愛らしいモノが大好きなのだ。


「かーわいいーっ!飛鳥ちゃん!ありがとーっ!大事にするねっ」


「喜んでもらえて良かったです」


 その様子を見ていた全員が、なにかの時に使えるかも知れないと、彼は可愛いモノ好きなのだということを脳に刻んだ。一頻ひとしきりストラップを取付けた携帯端末を、チリンチリンと振り続けてからポケットに押し込んで、黒腕と長谷寺はカクテルを飲み干し、そのまま新しいカクテルと生チョコを酒城兄弟に注文した。そして、今度は長谷寺が黒腕の手を取って、自分の大好物であるいちご飴を乗せた。


「飛鳥ちゃんはどーなの?楽しく殺してる?」


「そりゃもー、毎日楽しくて楽しくて仕方がないくらいですよっ。これからまた行こうかなぁって思ってたんですけど、せっかく紫陽花に会えたし…んー、次の一杯を最後にします」


「そっか!楽しめてるならイイねっ」


「はいっ!」


 一見いっけんすると微笑ましく感じるり取りに見えなくもないが、会話の内容は狂っている。この世界ページの、この広域一帯には好戦的な者達が固まって存在しているが、二人が育ったのは一騎当千の凶悪な魔物たちが闊歩かっぽし、往来おうらいを凶器や攻撃魔法が飛びいまくる場所だ、こういった話は特に珍しくなかった。そして、久しぶりの再会で、彼等はスッカリ故郷でのノリに戻ってしまっていた。冷や汗をかきながら、透が二人にカクテルを持ってきて、生チョコを二つの小皿に乗せて置くと、カウンターを出てヨロヨロと二階へ上がって行った。長谷寺は首を傾げている、黒腕は[あぁ忘れていた]とココが何処どこなのか思い出す。


「紫陽花、ココでは、あんまし話が楽しめないですねぇ。今度マンションまで行きますから、楽しく話しましょ!」


「そうなの…?わかった、楽しみにしてるねっ」


「はい、コレあげます。じゃあまた」


「わぁっ、ありがとーっ!またねーっ」


 グラスのカクテルを飲み干して、生チョコが乗った小皿を長谷寺のほうへ寄せ、紙幣しへいを数枚置いて店を出ていった。





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