第12話・名も無き平穏
犯罪都市地区ではなく他の地区で過ごすことが多かったならば、まだもっと[
「─…あーもー!世話のかかるセンセだな。これ、国語辞典」
教室の奥の方で声がしたかと思えば、長谷寺の顔が上がったのを確認した生徒のほうから分厚い本が飛んできた。何故か少し血が付いて乾いた跡があるが、それは無視して中身を見てみる長谷寺、何をどう読めば良いのか、これがまた分からない。モタモタと上下逆さまにしてみたり、最初のほうを見たり最後を見たり、何を思ったのか辞典の背表紙を持ってバサバサと振ってみている。
実は、辞典が
[まさか]の〝ま〟の字が、カラフルな髪色で素行が宜しくない生徒達の頭にも、さすがに浮かび始めてきた時、辞書を放り投げた生徒が教卓に向かって歩いてくる。茶髪に涼しげな黒眼の、
「センセ、もしかして見方わかんない?」
「分かんない、これナニ?絵も写真もないよ?なんも出てこないし…」
「本から何が出てくんのさ」
「んー、ドラゴンとか」
「………さーて[喧嘩]がどんなモンか調べましょーか。この本には、言葉の意味とかが
「言葉の意味」
教卓を椅子だと思っているかのような長谷寺、そんな彼に
「なぁ…センセ」
「はーい!」
「…あのさ、五十音って知ってる?」
「ゴジューオン、ゴジュウオン?強そう」
大多数の少年たちがガックリと肩を落として
「もうさぁ、お前が辞書ひいてやれよ。[あいうえお]から教えてらんねぇだろ」
「アイウえ?」
「…確かになー、んじゃセンセ、俺が読んであげっから聞いてて」
「はーい!」
状況は明らかにおかしいが、彼等が普段見ることの無かった平穏が、そこにはあった。国語辞典を長谷寺の手から受け取った石川は、[喧嘩]の単語を探し始める。その間、千歳は長谷寺を
「あったあった、んじゃセンセ、読むよ?」
「はーい!」
毎回手を挙げて元気な返事をするこの人物は、いったい何歳なのか、そこも気になるところではあるが、今はとりあえず[喧嘩]の意味を教えねばならないと、何故か3Dメンバーが
.
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます