第3話 諜報部隊「クロシェット」
「コクトー、捜査の進捗状況はどうか?」
アルカンシエル王国第二王子、フィエルテ・トロ―・アルカンシエルは、王城イストワールの執務室に、直属の臣下であるバルテレミー・コクトーを呼び出していた。政治畑のフィエルテは国内外の情勢を把握すべく、王国騎士団とは独立した独自の諜報部隊「クロシェット」を
「
白髪交じりの黒髪とキャスケット帽が印象的なコクトーは淡々と報告を進める。諜報員としてあらゆる環境に溶け込むべく、コクトーは外見的特徴を極力消している。直近では商人に扮し地方を巡っていたため、悪目立ちしない、質素な装いで活動していた。
「暗殺事件に加担した大罪人。必ず引きずり出してくれる」
現在、コクトーを中心とした「クロシェット」の諜報員は、フィエルテの命を受けて先の王子暗殺未遂事件の背景を調査している。
アマルティア教団暗殺部隊と内通していたのはアルカンシエル王国第四王子のレーブであったが、心に闇を抱えていたとはいえ、僅か10歳のレーブが自らアマルティア教団と接触を持ったとは考えにくい。逆もまた然りで、王族であるレーブと接触を持つことはアマルティア教団にとっても難題だったはず。故に、レーブと教団を繋ぐ仲介人が存在していた可能性が高いとフィエルテ王子は読んでいる。レーブの悪意と教団の思惑、この二つを繋ぐ存在がなければ、あるいは悲劇を回避出来たかもしれない。そういう意味では仲介人は元凶の一人といえる存在だ。
現在「クロシェット」の諜報員はレーブの交友関係を
「容疑者は絞られてきたが、お前の感触として誰が最も疑わしいと考える?」
「予断は禁物ですが、ボードレール卿の疑いは非常に濃い。レーブ様が公務でボードレール領に滞在して以降、両者には親密に手紙のやり取りを交わしていた痕跡が見受けられる。加えて、レーブ様の側はボードレール卿から届いた手紙のその都度処分する念の入れようです。ボードレール家は血生臭い噂も記憶に新しいですしね」
「家督を継ぐために末弟が引き起こした骨肉の争いか。似ているな」
立場や規模こそ異なるが、跡目を継ぐ権利を持たぬ末弟が刺客を差し向け
実の兄弟の暗殺を謀る。レーブの起こした凶行と何もかもがだぶる。
「現状、確固たる証拠は発見出来ておりませんが、当時のボードレール家の関係者と連絡を取ることに成功しました。王都を訪れているとのことですので、これから詳しい事情を聞いてこようと考えています。あるいは三年前の事件を導火線に、先の暗殺未遂事件に行き着くやもしれません」
「朗報に期待する」
普段は冷静なフィエルテ王子だが、今回ばかりは微かに口元に感情が乗っていた。レーブは大罪を犯したが、それでも兄としての親愛の情が消えたわけではない。弟の悪意に付け込み、一線を越せさせるに至った元凶の一つを、絶対に許してはおけない。無論、国益を重んじる王子としても同様だ。
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