第34話 反撃開始
「しかし、アマルティア教団はどうしてこの町に襲撃を?」
「生憎と今までは、そこまで考えている余裕が無くてな」
ナルキ神父が事切れたのを見届けたニュクスは教会前のファルコに改めて合流。なおも勢い盛んに攻めてくるカプトを切り伏せながら背中越しに語り合う。今までは目の前の状況に対処するので精一杯だったが、ファルコとロブソンという心強い助っ人が登場したことで、冷静に思考するだけの余裕が生まれた。改めて考えてみると、此度の襲撃には色々と不可解な点もある。
「時期的に見て、奴らは恐らくプラージュ侵攻部隊の残党だろう。この町を制圧して反撃の拠点にするという可能性は考えられるが、それにしては奴らは必死すぎる。魔物の物量から見てもまるで決死隊だ」
「作戦の足掛かりとしての制圧ではなく、奴らにとっては町の襲撃そのものが目的の可能性があると?」
「ただ、その価値が何処にあるのか、皆目見当がつかない。恐怖感情を
「上からで済まないが、一つ気になることがある」
目と耳の良いロブソンは狙撃の手を緩めぬまま、屋根の上から会話に参加する。
「確か、召喚術で出現した魔物は召喚者の意を受けて行動するんだったな?」
「そうだ。一部例外もあるが、今回出現した魔物は、召喚者の明確な指示の下に行動していると見て間違いないだろう」
「多くの住民が避難しているこの教会以外だと、港の周辺は明らかに魔物の数が多い。港は教団にとって襲撃の優先度が高い場所、ということになるんじゃないか?」
「そういえば昨日今日と、フォルトゥーナ共和国籍の商船が立て続けに入港していたはずだが」
ロブソンの指摘を受け、ニュクスは改めて港の方角を
「これまでの作戦規模を見るに、教団側の資金力は相当なものだ。金品強奪が目的とは思えないね。となると、教団側にとって金額では測れない価値のある積荷が存在するということかな」
「それが奴らにとって、命を懸けるに値する理由か。だとすれば、指揮官クラスの人間もそちらへ向かったと考えるのが自然だな」
ロディアが撃破したナルキは行動隊長であっても指揮官ではあるまい。この規模の部隊を指揮しているとなれば、最低でも司祭クラスの人間が存在しているはずだ。
「俺から一つ提案がある」
「奇遇だね。僕もたぶん、同じようなことを考えている」
「ここの守りをあんた達に任せたい。その間に俺とロディアで指揮官や召喚者を仕留めてくる」
「役割分担としては妥当なところだね。君が命懸けで守ったものだ。責任を持って守り抜くよ」
「俺も異論ない。ジルベール団長ならきっとそうする」
心強い助っ人が駆けつけてくれたことで、守勢から攻勢へ転じる選択が出来る。教会を目指す魔物の勢いは未だに衰え知らずだが、広範囲を攻撃出来るファルコと正確無比な狙撃技術を持つロブソンの二人がいれば教会の守りは盤石だ。
攻めることで守る。指揮官と召喚者を討てば事態を根本的に解決することが出来る。迅速に標的を仕留めることはアサシンの得意分野だ。
「ロディア、これから俺とお前で」
「話は聞こえていた。私は先に行くから」
「おい、ロディア」
ずっと教会から距離を取って戦っていたロディアは、周辺の敵を一通り片づけると、一度も振り返らぬまま町へ向かって駈け下りて行った。そんな様子を見てファルコが苦笑を浮かべて肩を
「彼女、随分と僕とロブソンのことを警戒しているみたいだね。一度も目を合わせてくれないまま行ってしまったよ」
「怖い怖い追手様だからな。俺を思ってのことだ。気を悪くしないでくれ」
「愛されているんだね、君は」
なるべく穏便な方向に持っていくつもりだが、事態収束後に、追手であるファルコやロブソンとの荒事に発展する可能性は否定できない。ニュクスを奪われたくないロディアからすれば、二人は十分敵意の対象だ。
「彼女の剣技は君のものとそっくりだ。彼女も君と同僚だったのかい?」
「……そうだ」
「もしや彼女は」
一瞬、空気が張りつめる。共にグロワールの竜撃を潜り抜けた者として、ファルコがアマルティア教団暗殺部隊との間に因縁を持つことはニュクスとて承知している。
「いや、済まない。無駄話をしている場合じゃなかったね。強いといっても一人では心配だ。君も早く彼女を追いかけてあげて」
「ああ、この動乱に終止符を打ってくる」
お互いに即座に気持ちを切り替え、次なる行動を開始。
ファルコがテンペスタで風の刃を生み出し、ニュクスの進路上のカプトを切り刻む。ロディアの後を追って、ニュクスも高台から町へと駈け下りて行った。
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