第30話 クレプスクルム・カタラクタ
同時刻、商船ソキウス号は、マスティオ司祭率いる部隊の襲撃を受けていた。
寄港し、荷下ろしを開始した直後の出来事だったため直ぐには船を出せず、船乗りたちは防衛戦を強いられていた。
「海の男の恐ろしさを思い知らせてやれ!」
「おおー!」
アクス・マグネティカ船長率いる船乗りたちは、依頼さえあれば
最年長でもあるアクス・マグネティカ船長は部下達に負けてはいられないと、先陣を切ってカプトへと斬りかかる。カトラスの二刀流で次々とカプトが切り
「船長にばっか、いい恰好はさせませんぜ」
隙をついて船長の背後からカプトが一体飛びかかったが、若い二名の船員が同時に
「なるほど、魅惑の財宝には番人が付きものというわけか」
召喚した魔物を
ソキウス号は500年前の英雄へと繋がる重要な鍵を積んでいるにも関わらず、護衛の傭兵も連れずにこのリッド港までやって来た。商船一つ、容易く掌握できると高を
護衛をつけていなかったのではない。護衛をつける必要が無かったのだ。
鍵を管理し、身に着ける本人が戦闘能力に自信を持っているならば、護衛をつける必要性は薄れる。
「トリア!」
「があああああ――」
鍵を守護せし白衣の女性が、右側面から殴り掛かって来たメイス使いの戦闘員の腹部へと、強烈な右ストレートを叩き込んだ。拳が直撃した瞬間、凄まじい爆炎が発生、メイス使いは体から煙を上げながら勢いよく吹き飛ばされ、木造の倉庫へと突っ込んだ。
女性の両手には特殊な
「クインクエ!」
「早い――」
攻撃直後の隙をついて背後から短剣使いが首を狙ったが、白衣の女性は
「攻撃の瞬間に魔法陣と共に発生した爆炎や雷撃か。そのグローブや肘当て、特殊な
「ご名答ですわ。優れた洞察力と他を寄せ付けぬ
「如何にも、私の名はマスティオ。アマルティア教団では司祭の地位にある」
「名乗られた以上は名乗り返すのが礼儀ですわね。わたくしの名前はクレプスクルム・カタラクタ。カタラクタの名は、あなた方もよく知っておられるでしょう?」
「成程、ウェクシルム・カタラクタの系譜だったか。500年もの歳月を経てなお、子孫の代までウェスペルへ忠義建てとは恐れ入る」
謎多き存在として知られるウェスペルだが、そんなウェスペルに関する数少ない情報の一つに、腹心の戦士、ウェクシルム・カタラクタの名が上げられる。
変り者だったとされるウェスペルと、後のアルカンシエル建国の王、英雄騎士アブニール率いる虹色の騎士団との間を取り持つ調整役としても活躍し、他の英雄に関する記録にも度々その名前が登場する。そのため、情報量だけならウェスペルよりもウェクシルム・カタラクタに関する記述の方が圧倒的に多い程である。
戦闘能力では6人の英雄達には及ばなかったとはいえ、最前線へ身を置きながらも大戦を生き抜いた経歴から、かなりの強者であったことは間違いない。
ウェスペル、ウェクシルム・カタラクタ共に大戦後の動向は一切不明だが、500年が経過した現代において、ウェクシルム・カタラクタの子孫がウェスペルの遺物へと繋がる鍵を守護している以上、ウェクシルム・カタラクタは生涯、いや、子々孫々に渡って忠義者で有り続けたということなのだろう。
「単なる略奪では不完全燃焼だ。ウェスペルへと至る鍵を
「遺功、
「すでに我らは命の
フードを下ろし、
「その可憐な容姿から飛び散る血飛沫は、我らが花道をさぞ美しく彩ってくれようぞ」
不敵に笑ったマスティオ司祭は、得物である黒いバラ
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