第46話 藍閃騎士団団長
「ドラクロワ団長……」
「……カジミールか……よくぞ舞い戻ってくれた……」
地下倉庫の壁面に背中を預ける
これらの負傷は
まだ当人には明かしていないが、後継者として次期藍閃騎士団団長に推薦するつもりだったカジミールがこうして目の前へ現れたことは、ドラクロワ団長にとって
「……カジミールよ……君にこれを……託す……」
ドラクロワ団長は弱々しい左手で懐から必死に、一冊の黒い皮表紙の手帳を取り出し、カジミールへと手渡した。
「この手帳は?」
「……フォルス様の記した……ものだ……ソレイユ様に……お渡し……そこには……教団がルミエール領を狙った……理由についても……書かれて……いる」
アマルティア教団がルミエール領を狙った理由については、
確かにアマルティア教団の狙いにはそれらも含まれているが、ルミエール領に大規模な戦力を送り込んだ最大の理由が別に存在する。
500年前の大戦時、邪神ティモリアに最後の一撃を加えたのは『
アルジャンテの刀剣は邪神を切り裂き、凄まじい魔力を有する返り血を刀身に帯びたことでよりその性能を高めたと考えられる。一度邪神の封印を成した伝承の武器の存在は、邪教アマルティア教団にとっては何よりの脅威。
そのため教団は、アルジャンテの
領主フォルスの首は討ち取られ、最終防衛拠点だったルミエール邸も陥落。ソレイユ率いる先遣隊による戦闘はまだ継続しているが、王都からの増援も直ぐには望めぬ現状で戦況を引っくり返すことは不可能だ。
ルミエール侵攻はアマルティア教団の大勝。しかしそれは戦に限っただけの話。少なくともアマルティア教団側は、本来の目的であったアルジャンテの刀剣の取得を果たすことは出来ない。
アルジャンテの刀剣は、それを狙う勢力の出現を想定した危機管理の一環として、数代前に別の土地へと移されている。その秘密は領主の座を継承する際に代々受け継がれるもの。故に、今日に至るまでその事実が外部に漏れることは無かった。
領内を戦場としてしまい、一般市民にも甚大なる被害が及んだ時点で勝利など存在しないが、アマルティア教団の本来の目的を防いだという意味では一矢報いることには成功したと言える。
「……ソレイユ様と共に……絶対に……生き延びよ……さすればその手記が……未来へと……導い――」
「団長!」
ドラクロワ団長が激しく吐血。止めどない腹部から出血もとうに致死量を超えている。カジミールに未来を託したことで、緊張の糸が切れてしまった影響も大きいだろう。
「……レミー・ドラクロワの名を持って……君を騎士……団長へと……任命する……ソレイユ様と……共に……ルミエール……未来――」
騎士団長としての最後の務め。任命責任を果たすと同時に、レミー・ドラクロワ藍閃騎士団前団長は事切れた。
「……たとえ此度の戦を敗走したとしても、必ずや藍閃騎士団を再起させ、我らが故郷を取り戻すと強く誓います。無論、その先にあるルミエール領の再興も……どうか見守っていてください」
藍閃騎士団真団長の責務は24歳の青年に対してあまりにも重いものだが、カジミールは決して取り乱すような真似はせず、静かに力強く頷き、その任を拝命する。
ドラクロワ前団長の目を伏せてやると、近くに丸まっていた備品の敷布をリュカと二人で、そっと亡骸へと掛けてやった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます