第44話 落陽
「……ふむ。そろそろ時間のようだな」
凄まじい冷気を
「時間? どういう意味だ」
アイスベルクを振るったベルンハルトが一瞬にして濃霧を細かい氷の粒へと
すでに戦闘開始から30分以上が経過。両者の攻撃力はほぼ互角で、決定打が出ぬまま悪戯に時間だけが経過していた。ベルンハルトは
ラヴァの側も、僧衣の一部が
「元々この地へは、持ち場を離れて一時的に赴いただけのこと。少々長いし過ぎたが、そろそろ本来の戦地へ戻らねばならない」
ラヴァが本来駆り出されていた戦場は、南部ゼニチュ領の中心都市ファルジュロン攻略戦だ。
教団側は四ヶ所の地域に同時侵攻を掛けつつも、ある目的からルミエール領攻略を最重要任務へと位置付けていた。そのため、元よりルミエール戦に投入予定であった
ラヴァに一時的に与えられた役割は西部街道の閉鎖。凶星タナトスや
「薄情だな灰燼王。俺と
「貴殿との戦いを楽しんでいたことは否定しない。技術はやや粗いが、圧倒的なパワーと身体能力、それを引き出す天性の戦闘センスに関しては、かつての白騎士以上のものを感じた。この場を立ち去ることは名残惜しいが、与えられし使命は何よりも優先させなくてはならぬのでな」
「俺が素直にお前を行かせると思うか?」
不快そうに眉根を寄せて、ベルンハルトは大振りなアイスベルクの刀身の切っ先をラヴァの喉元へと向ける。
「己惚れるなよ? 人間如きに我を繋ぎ留めることなど出来ぬ!」
「ちっ、
ラヴァが左手を地面に
ベルンハルトが大地に剣を突き刺した隙を突き、ラヴァの体は上方へと浮上。天へ突き出した右手の先には、簡易太陽とでも呼ぶべき、巨大な火球が生み出されていた。巨大な球体状に収束した炎の破壊力は、これまでで最大級だと予想される。
そして、不敵な笑みを浮かべて下方を見下ろすラヴァの視線の先にあるのは、
「危ない! ゾフィー!」
「ベルンハルト」
ラヴァの狙いがゾフィーであると直感したベルンハルトが地面からアイスベルクを引き抜き、即座にゾフィーの下へと駆け寄り背に庇う。
ほぼ同時に、ラヴァが掲げた右腕を振り下ろす。その動きに連動して、上方の巨大な火球がベルンハルトとゾフィー目掛けて急降下してきた。
「姿勢を低くしていろ!」
「……魔力操作の技術なら私の方が上よ。二人で防ぎきる!」
ベルンハルトはまだ物言いたげだが、これ以上問答している余裕は存在しない。ベルンハルトが切り上げるようにして火球を迎え撃ち、ゾフィーはそれを補助する形で周辺に冷気を発生させ、アイスベルクの攻撃に回す冷気量を増幅させた。
刹那、切り上げたアイスベルクとラヴァの火球とが接触。
此度の戦で最も激しい水蒸気が、数十メートルの高さまで立ち昇った。
「この時代もなかなか面白いではないか。また会おうぞ、若き
ラヴァの頭上に転移用の魔法陣が発生。それを潜るようにしてラヴァは高度を上昇させる。新たな時代で得た好敵手の存在に歓喜しながら、灰燼王ラヴァはルミエール領での戦闘から離脱した。
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