第43話 牙は折れず、意志も折れず
「隊長!」
ドミニクと
ブラフォスが無造作に破壊した家屋の破片が襲来し、その一片たる大きな
「この程度で俺を止められたつもりか!」
即座に感覚を回復させたドミニクは、大口開けたブラフォスの口内へ自ら上半身をねじ込み、顎を閉じられる前に得物であるハルバードを、ブラフォスの口内につっかえ棒のようにしてはめ込むことで、噛み殺されることを回避した。ドミニクのハルバードはゼニチュ領の鉱山都市ファルジュロンで鍛え抜かれた特別製で、ベルセルクルコアを含めたドミニクの激しい戦闘スタイルにもついていけるよう、圧倒的強度を実現させている。いかに巨大な地竜の顎の力とはいえ、そう簡単にこのハルバードをへし折ることは出来ない。無論、ドミニクの有する闘争本能もまた同様だ。狼将軍の牙をへし折ることは、何者にも不可能。
「うらあああああああああ!」
ドミニクの両腕の筋肉が瞬間的に膨れ上がり、人の域では本来発揮出来ぬであろう怪力、否、馬鹿力を発揮する。ブラフォスが顎を閉じる力に抗い、ドミニクは
「――――――!!!!」
ブラフォスのうめき声が周辺へと響き渡る。ドミニクの規格外の馬鹿力による突き上げの勢いで、ブラフォスの顎が外れてしまったのだ。噛み殺されるリスクを力づくで抹消し、ドミニクのブラフォスの口腔内から素早く身を引いた。
即座にドミニクは、顎のダメージで動きの鈍ったブラフォスの首目掛けて、下方から豪快に切り上げる。動脈は裂けなかったがそれでも傷はこれまでで最も深く、ブラフォスの首に刻まれた真一文字の傷から、多量の血液が滴り落ちてくる。
「このまま殺し切ってや――」
同じ箇所を狙ってさらに傷を深く広げてやろうと、ドミニクは再度切り上げる姿勢を取るが、最大の窮地は唐突に現れた。
切り上げようとしたドミニクの動きがピタリと止まり、次の瞬間、ドミニクの表情に
「……くそっ! 時間切れか」
戦闘開始から
「隊長! 今救出に」
「……よせロイク! ……巻き込まれる――」
ドミニクに起こった異変を察したのだろう。顎の痛みに苦しんでいたブラフォスは
その場にいた誰もが、ドミニクの生存を絶望視した。当のドミニク本人もだ。
そして、最期の時は訪れた。
「なっ」
ドミニクを押し潰さんとブラフォスの振り下ろした巨大な尾が空中で静止。次の瞬間、苦痛を伴う大きな呻き声と共に、突如としてブラフォスの巨体が黒化、ドミニクの攻撃により負傷していた箇所を始点として、一瞬にして霧散、消滅してしまった。
ドミニクの攻撃もかなりのダメージをブラフォスに与えていたが、唐突な肉体限界を与える程ではなかったはずだ。だとすればブラフォス消滅の理由は、元を断たれたと考えた方が自然だろう。
「……助かりましたよ、オスカー殿」
空目掛けて拳を突き上げたい気分だったが、激痛と脱力感で指一本動かすこともままならない。感謝の念を空へ向けて呟くことが、今のドミニクには精一杯だった。
〇〇〇
「……間に合っているといいのだが」
同時刻。リアンの町の東の集会場にて、オスカーはブラフォスを共同で召喚していたアマルティア教団召喚士の
しかし、オスカーとて五体満足とはいかなかった。彼の体からは、右腕の上腕から先が失われ、止血帯を撒いて、その上から紐できつく縛り上げる応急処置が施されていた。
「……あれだけの使い手を退けたんだ。片腕で済んで良かった」
「……流石に血を流し過ぎたかな」
片腕を失う重症を負ってまともに行動出来るはずもないが、それでもなお、何か役割を捜そうとする程度にはオスカー・ヒッツフェルトの精神は強靭だ。
先ずドミニクらとの合流を急ぐべく、オスカーは顔色悪くふら付きながらも、真っ赤な集会場内を後にしていく。
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