第34話 最後の砦
「どきなさい!」
ルミエール家の正門突破に成功したソレイユを筆頭に、一行はエントランスに立ち塞がる教団戦闘員達を次々と切り伏せていく。攻城戦を仕掛けたつもりが、まさか背後から襲撃されるとは思っていなかったのだろう。一瞬の動揺が仇となり、教団戦闘員たちは呆気なく屍を晒していく。
しかし、転がる屍は教団戦闘員のものだけではない。ソレイユ達が到着する以前に、一度アマルティア教団の侵攻によって屋敷の正門が突破されている。その際の犠牲者なのだろう。血だまりに沈む、戦死した顔馴染みの騎士達の姿も少なくない。
教団の戦闘員や召喚された魔物の軍勢だけで、屈強なルミエールの騎士達が正門の突破を許したとは思えない。より高位の、非常に危険な存在が正門を破った可能性も考えられる。
「……屋敷の奥ではまだ戦闘音が継続しています。恐らく、地下倉庫へ繋がるパーティーホールが最後の籠城場所となっているはずです。今ならまだ間に合います」
避難所として活用する地下倉庫に繋がる関係上、パーティーホールは最終防衛地点として活用出来るよう、守りやすい構造となっている。正門を突破された今、最後の戦場となるのはパーティーホール以外考えられない。戦闘音が継続しているということは、まだパーティーホールの守りは突破されていないということ、今からでも加勢出来る。
「……ソレイユ様……ですか?」
不意にエントランスに現れた、今にも消え入りそうな弱々しい声。
血の滲む手を壁に付きながら、重症を負った一人の若い騎士が、覚束ない足取りでエントランスへ姿を現す。
「ジョエル!」
「……修練場の倉庫にも……町の生存者がいます。応援を……」
「ジョエル! しっかりしなさい!」
必至に声を絞り出すと、不意にジョエルの意識が消失した。
辛うじて息はあるようだが危険な状態だ。何とか気力だけで持ち堪えてここまで到着したのだろう。
「生存者を放っておくわけにはいきませぬ。修練場へは私が」
「わたしもクラージュと共に向かいます」
「分かりました。頼みましたよ、クラージュ、ウー」
迷っている時間はない。ソレイユは申し出に即座に頷き、修練場にはクラージュとウーの二人を向かわせることとなった。
「シドニーとルミアはジョエルに応急処置を施しつつ、エントランスの守りを固めてください。脱出経路は常時確保しておきたいから」
「承知いたしました」
「全力でエントランスを守り抜きます」
カジミール隊に所属している赤茶色の髪の男性騎士シドニー・マルブランクと、オリーブ色のロングヘアーの女性魔術騎士ルミア・ラファージュの二名が、エントランスで待機することとなった。重装騎士であるシドニーは防衛戦を得意としており、ルミアは治癒魔術の扱いに長ける。防衛しつつ負傷者の治療を行うにもってこいの人材だ。
「残りの者には私と共にホールでの戦闘に加勢して頂きます。よろしいですね?」
カジミール、ジャメル、リュカ、ディディエ、ダリウス、リディアーナの6名が力強く頷く。死地へと踏み込む覚悟など、いまさら問われるまでもない。
「参りましょう!」
シドニーとルミア、負傷したジョエルを残し、一同は二手に分かれてより苛烈な死地へと踏み込んでいく。
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