第32話 狂乱中枢覚醒 -ベルセルクルコア-
「隊長! ユーゴとグレンがやられました!」
「……くそっ! あのデカブツめ!」
リアンの町の中心部で繰り広げられる、
捜索に向かったオスカーが召喚者を仕留めることが出来れば、ブラフォスは存在を維持することが出来なくなる。何としてでも、それまでブラフォスを足止めしなければいけない。
「ロイク、あれを使う。出し惜しみ出来る状況ではなさそうだ。俺が再起不能に陥った場合は、お前が代わりに隊の指揮を執れ」
「承知しました。
「念のためだ。俺とてここで死ぬつもりなどない――巻き込まれないように、全員を一度下らせろ」
ドミニクの指示に従い、ロイクは即座に部下達を後退させた。
同じ戦場に立つアイゼンリッターオルデン所属の騎士、グロワールの傭兵達にも簡潔に事情を説明。巻き込まれないようにと全員が一度、ドミニクとブラフォスから距離を取った。
「悪いが好き勝手もここまでだ、デカブツ。ここから先は獣と獣の殺し合いだ!」
鼻息荒く高々と吠えると、ドミニクはその場に踏みとどまるかのように、地面へ荒々しくハルバードを突き立てる。
解放の準備は整った。後は激情に身を任せ、己が魂に秘めし
「ベルセルクルコア(
瞬間、大気が激しく震動。周辺の煙火が一時的に霧散していく。
獣性を解き放ったドミニクは太い血管が全身に浮かび、目は激しい闘争本能から赤く血走っている。姿勢はそれまでよりも低く、獲物を補足した捕食者のようでもある。
ベルセルクルコア(狂乱中枢覚醒)。
人間はかつて獣だった頃の名残で、誰しもが精神の奥底に獣性を秘めているとされる。内に秘めし獣性が特に凶暴な者が、それを自覚し理解することで、ついには身体能力をも向上させる。その
資質を持ち合わせた者は数万人に一人の割合とされるが、平時でそれを自覚することは難しい。故に発現する者は、主に戦場に身を置く騎士や傭兵といった人種に限られる。そのため確認されているベルセルクルコアの人数はそこまで多くはない。
ベルセルクルコアに目覚めた者は、まず第一段階として、強い闘争本能と高い生命力を得る。先日の王子暗殺未遂事件でシエル王子の命を狙ったアマルティア教団所属のアサシン、ツァカリもこのベルセルクルコアの第一段階を発現していた人間。腕を失い、首を刎ねられてなお前へ進み続けた闘争本能と生命力は、ベルセルクルコアによって発揮されたものだ。
そして、現在ドミニクが発現したのは、それをさらに上回るベルセルクルコアの第二段階。内に秘めし獣性と対話し、それを受け入れたことで、獣の力を我が物とした一つの完全系である。
ドミニクの内に眠っていたのは狼の将軍。内なる獣を解き放った戦士の発揮する戦闘能力は、これまでの比ではない。
無論、デメリットも存在する。ベルセルクルコアを発動すると、意識を残しながらも、その溢れ出る闘争本能から思考能力が低下、本能的に攻撃を繰り返し、防御行動が疎かとなる傾向にある。人の身のまま凄まじい運動性能を発揮することで肉体への負荷も多大。高い攻撃性能を発揮する代わりに負傷頻度が上昇する。ベルセルクルコアとはまさに、諸刃の剣とでも呼ぶべき身体強化法なのである。
肉体への影響から多用は出来ない。また、使用後には肉体の限界を超えたことによる激痛と脱力感に襲われることとなる。そのため、一つの戦場では一度の使用が限界。その後は完全に戦闘不能状態へと陥ってしまう。
ドミニクがベルセルクルコアを発動したということは、ブラフォス迎撃に己の全てを懸けると覚悟したということだ。
「殺してやるよ!」
凶悪な笑みを浮かべて、ハルバード片手にドミニクは跳躍。近くの民家の屋根に飛び乗ると、その屋根を足場にさらに高々と跳躍、ブラフォスの身長に匹敵する十数メートルの高さまで、身体能力一つで到達した。
降下の勢いとベルセルクルコアで強化された
ブラフォスは右腕でドミニクの体を吹き飛ばそうとするが、ブラフォスの体を足場に軽やかに飛び回るドミニクの影を捉えることが出来ない。ドミニクのベルセルクルコア――ルプスインペラトルは速力に優れる。巨体故に
「これでもくらっとけ!」
目にも止まらぬ速さでブラフォスの正面に現れたドミニクが、鎧に覆われていない腹部の表層をハルバードで豪快に切り裂いた。耳を
しかし、ベルセルクルコアには発動限界が存在する。ブラフォスを圧倒出来るのは10分程度が限界。それを越えれば激痛と脱力感から指先一つ動かすのも難しくなり、無防備なまま一撃で殺されてしまう。ベルセルクルコアの活動限界を迎えるのが先か、オスカー達が召喚者を仕留めるのが先か。これは大きな賭けである。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます