第25話 凶牙竜ブラフォス
「新手か!」
「おっと、早まらないでくださいよ、ドミニク・オードラン殿。アイゼンリッターオルデンの者です」
気配を感じた瞬間、ドミニクは即座に振り返りハルバードの尖端を向けたが、気配の正体はオスカー・ヒッツフェルトら数名のアイゼンリッターオルデンの騎士達と、随行するグロワールの傭兵達であった。先頭に立つオスカーは殺意剥き出しのドミニクの眼光を受け、投降するかのように苦笑顔で両手を上げている。
なお、この場にいないゼナイドやイルケらの部隊とはリアン到着時に別れ、彼女達は激戦が予想されるルミエール邸の方へ加勢に向かっている。
「失礼。戦闘直後故に気が立っていた」
「
優男風な外見とは裏腹に、ドミニクは「
アマルティア教団という共通の脅威が出現したことで関係は安定的なものとなったが、近年、アルカンシエル王国とシュトゥルム帝国との関係性は悪化の傾向にあった。ドミニクとの出会いが敵同士としてではなくて良かったなと、オスカーは本気でそう思っている。
「ゾフィー団長と黒騎士殿は?」
「少々厄介な事になりましてね。西部街道に
「西部街道にも
「ラヴァだけではなくエマもとは。不謹慎な表現ですが、戦力の大盤振る舞いだ」
面食らった様子で肩を竦めながらも取り乱さない辺り、オスカーも流石は帝国最強の騎士団の主力メンバーといったところだ。
一柱出現するだけでも災厄級だというのに、それが同じ地域に二柱も現れたとなれば、それはもはや大災害といっても過言ではない。今現在、教団の侵攻が発生している四つの地域の中で最も危険な戦場と化しているのは、間違いなくこのルミエール領であろう。
「とにかく、私たちは私に出来ることをするしかありませんね。今より我らも、リアンでの救援活動および戦闘に参加させて頂きます」
「加勢に感謝する。ソレイユ殿の思いに応えるためにも一人でも多く――」
ドミニクが言い終えるのを待たずして、突如としてリアンの町の中心部に魔法陣らしき発光体が出現、同時に地鳴りと地揺れが発生する。
魔法陣が消滅すると同時に町の中心部には、岩のようにも見える頑強な鱗の鎧に全身を包み込まれた、二足歩行の肉食恐竜のような姿をした魔物が出現。下り立った際の衝撃で大地が揺れる。魔法陣から出でたところを見るに、教団の魔術師が召喚術で呼び出したのだろう。
飛翔能力を失った代わりに、強靭な肉体で大地を
巨大な地竜の正体は、遥か上空より虐殺の限りを尽くした
四柱の災厄には及ばぬものの、ブラフォスもまた伝承にその名が登場する第一級の強力な魔物。その巨体と凶暴性も相まって、放っておけば町は瞬く間に蹂躙されてしまう。迅速に
「安全確保の観点から見て、あれとの戦闘は免れないな」
「私の得意分野は直接戦闘よりも
「なに、あのデカブツは自分が全力で食い止めますよ。オスカー殿には召喚者の方を仕留めて頂こう。過去の例を見るに、召喚者は必ず近くにいるはず。そっちを叩いた方が各段に早い」
「被害を抑えるためには、確かにあの竜の足止めは不可避ですが、流石のあなたでも骨の折れる作業では? もちろん、私は私で迅速に事を収められるよう努めますが」
「人の域では確かに辛いだろうが、獣同士なら話は別だ。いざとなれば我が内に秘めし獣を解き放つまでのこと」
「なるほど、それこそが猛獣の異名の真の由来というわけですか」
合点がいった様子で頷くと、オスカーは気合いを入れるべく、頭の黒いバンダナをきつく結び直した。
「オトフリートとアンドレアスは私に続け。他の者はこのまま救援活動と戦闘を継続」
日頃からまとめ役としての印象の強いオスカーの意見にアイゼンリッターオルデンの同僚たちが頷き、即座に役割分担が成される。随行してきたグロワールの傭兵達は、住民の救助を中心に活動することとなった。
「速攻で仕留めてきますよ」
「ご武運を」
持ち前の俊足でその場から消えたオスカーを見送ると、ドミニクは豪快にハルバートを担ぎ上げ、事態を察して集合した副官のロイクら数名の部下や、その場に残ったアイゼンリッターオルデンの騎士達と共に、凶牙竜ブラフォスの迎撃へと向かった。
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