第17話 カジミール・シャミナード

「見えましたソレイユ様。カジミール兄さんを先頭にした、避難民を護衛した部隊です」

「良かった。無事に街道を抜けられたようですね」


 ヴェール平原へと到着した先遣隊が、カジミール・シャミナード率いる部隊の姿を捉えた。最初にその姿を目視したのは射手であり視力に優れるウーである。

 今現在ソレイユが率いるのは、ソレイユ隊とドミニク率いる牙噛きばがみ隊、グロワールで雇用した傭兵達の半数。ルミエール領から避難してくる住民を保護するために随行している、オッフェンバック卿が派遣してくれた救援隊といった面々。

 ゾフィー率いるアイゼンリッターオルデンは、地理を把握しているゼナイドと、残る半数の傭兵達を加えて別行動中。作戦を遂行するため、別ルートからリアンの町を目指している。


「ソレイユ様。こうして再会叶い、嬉しく思います」

「私もですカジミール。あなた達の活躍により、多くの住民を無事に安全圏へと退避させることに成功しました。感謝してもしきれません」

「騎士として当然のことをしたまでです」


 休む間もなく住民の護衛とカキの村の防衛を繰り返す日々を送って来たというのに、カジミールはその表情に一切の疲労感を滲ませず、淡々とそう言い切ってみせた。その体力と精神力は強靭の一言に尽きる。


「住民の身は、オッフェンバック卿の派遣してくださった部隊へお預けします。カジミール達にも私達の戦列に加わって頂きます。よろしいですか?」

「元よりそのつもりにございます。カジミール・シャミナード位下7名。ソレイユ様の戦列に加わらせて頂きます」

「心強いわ、カジミール」


 藍閃らんせん騎士団最強格の一人であるカジミール・シャミナードの参戦。

 当人もまだ知らぬが、時期騎士団長候補でもある豪傑ごうけつの加入は、戦略的な意味でも大きな意味を持つ。冷静沈着かつ、ソレイユ隊の中では年長ということもあり、精神的支柱としても頼れる存在だ。


「作戦はどのように?」

「先ずは残る住民の避難誘導を優先させます。我々の隊は、まだ閉ざされていない、南街道の脱出経路の安全を確保。そのままリアンの町へ突入し、父上率いる藍閃騎士団の本体へと合流します。また同時進行で別動隊として、ゾフィー・シュバインシュタイガー団長率いるアイゼンリッターオルデンを中心とした部隊が、地理に明るいゼナイドの先導の下、西部街道方面へと回り込んでいます。教団側もまさか、今朝方掌握したばかりの西部街道を背後から攻められるとは想定しないでしょう。突破力のあるゾフィー団長らの強襲で西部街道を開放、二つの経路を使って、非戦闘員を迅速にリアンの町から退避させる計画です」

「なるほど、突破力のある少数制部隊の同時攻撃で、包囲網に穴を空けるというわけですか。かのアイゼンリッターオルデンも参加しているとは、何とも心強い」


 住民の避難さえ完了すれば、戦闘に参加する全ての戦士が全力で事に当たられる。戦闘能力に優れるソレイユ隊やアイゼンリッターオルデンがいれば尚のことだ。ある程度侵攻を絶え凌ぐことが出来れば、王都からの本格的な援軍の到着も見込める。そうなれば、教団に対する勝利も決して夢ではなくなる。


「ルミエール領の直近の状況は?」

「西部街道が掌握されたことで防衛線は後退しましたが、今現在はまだ教団の町への侵入は食い止めています。住民の避難に関しては、後続としてカメリアの護衛する隊がルミエール領を発ったはずです。予定通りならば間もなくカキの村に到着する頃でしょうか。リアンへ向かう我々の部隊とも、直に道中で合流出来ることでしょう」

「カキの村の現状は?」

「私の部隊が通過した時点では特段異常は見受けられませんでした。脱出の要所として絶えず重点的に守りを固めていた場所です。教団の攻撃が苛烈となっても、そう簡単に制圧されることはありません」

「承知しました。カメリアの部隊と合流するためにも、先ずはカキの村を目指しましょう」


 カキの村の守りをより強固な物とすれば、南の街道を利用した避難誘導をより安全に行うことが出来るようになるし、今後大規模な増援が望めた場合の前線基地としての活用も可能だ。いずれにせよカキの村が今後も重要な拠点となることは間違いない。


「クラージュ。息災で何よりだ」

「カジミール兄さんこそ、とても大変な状況だったと聞いている。よくぞご無事で」

「昔から体の頑丈さと体力には自信があるからな。この程度は何と言うことない。この先も存分に暴れてやるさ」

「……カジミール兄さんの顔見たら、何だか安心したよ」

「ウー、感動の涙は動乱の終結まで取っておけ。まだ何が起こるか分からないからな」

「そうだね、カジミール兄さんの言う通りだ。もっと気を引き締めないと」

「その意気だ」


 年長としての温かい眼差しで、カジミールは妹分のウーの頭を優しく撫でてやった。


「元より気合いは十分だが、カジミール兄さんと共に戦えると思うと、なおさら負ける気がしないよ」

「俺もだ。今まで俺達に乗り切れなかった難局はない」


 流石に弟分のクラージュの頭を撫でるような真似はしないが、激励の意味を込めて籠手でクラージュの鎧の胸部を軽く叩いて金属音を鳴らした。


 カジミールの合流を受けてルミエール出身者の志気も上々だ。

 追い風が吹いていると、誰もがそう確信していた。

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