第16話 危機迫る

「西部の街道が掌握された以上、南部の街道も何時までも安全とは限らない。完全な包囲網を敷かれる前に、一人でも多くの住民を南部の街道から脱出させる。先刻出立したカジミールの隊に続き、カメリアの隊も迅速に出立しなさい」

「承知しました。全身全霊をもって住民の護衛にあたります」


 ソレイユら先遣隊がグロワールを発ってから二日後。

 ソレイユの到着を待たずして、ルミエール領は危機的状況に陥りつつあった。

 数時間前に二本ある脱出経路の内、西部の街道を防衛していた部隊がアマルティア教団の攻撃により壊滅。西部の街道を制圧されてしまった。

 こうなれば、残る南部の街道の利用も危うい。まだリアンの町には2割程の住民が残されており、急ぎ一人でも多くの住人を町から退避させなくてはいけない。高い戦闘能力を持つカメリアを中心とした部隊なら、多少の妨害ならば力技での突破も可能だ。防衛戦力を避難誘導に回すのは大きな賭けだが、避難ルートの一方が失われた以上、勝負に出るしかない。

 今回カメリアの護衛する馬車にはリアンの町の住民に加え、ソールら屋敷の使用人数名も含まれている。戦渦がルミエールの中枢に及ぶのももはや時間の問題だ。住民に加え、使用人ら非戦闘員の避難も本格的に進めていく。


「街道を抜けたらカキの村を経由し、ヴェール平原へと抜けなさい。カジミールにも同様の指示をしてある。ソレイユらを含む王都からの先遣隊がこちらへ向かっているとのこと、上手くいけば道中で合流出来るはずだ。合流後は先遣隊の指揮下に入り行動してくれ」

「フォルス様は如何成されるおつもりですか?」

「ギリギリまでは住民を退避させる方法を模索するつもりだが、負傷者も多く全員を退避させることは困難であろう。完全に包囲網が敷かれ脱出が困難と判断した場合は、住民を屋敷へと集め籠城戦を慣行する。防衛に徹しつつ勝機を伺うさ。現状旗色は悪いが、先遣隊がルミエール領へ到着すればまた風向きは変わって来るだろう。挟撃を仕掛ければ、数で勝る教団側の包囲網を崩せる可能性は十分にある」

「先遣隊と合流した後には、私も外部から攻撃に参加いたします。どうかご武運を」

「うむ。カメリア、民を頼むぞ」


 胸に手を当て深々と頭を垂れるカメリアを激励し、フォルスはその肩に優しく触れた。

 お互いにこれを今生の別れとするつもりはない。お互いに戦渦を生き抜き、再びこのルミエールの地で再会を果たす。領主と騎士、両名の瞳には強い覚悟の炎が猛っていた。

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