第12話 家族

「……ねえ、ゼナ姉。聞きたいことがあるんだけどいいかな?」


 会議終了後。オッフェンバック邸のエントランスに、ウーとクラージュ、ゼナイドの三人が集まっていた。ソレイユは会議を終えたその足で、ルミエール領からの避難民を見舞いへ向かったので、この場には参加していない。


「ご家族のこと?」

「うん。騎士として目の前の任務に集中するべきなのは分かっているけど、やっぱり家族のことは心配だから」

「ご家族のことが心配なのは当然だよ。ウーのご家族については、お母様と幼い双子の弟さんと妹さん。三人はロゼ領まで無事に避難済みよ。アドニス隊長とトロンさんも、大きな怪我もなくご健在」


 ゼナイドの報告を受け、ウーはほっと息を撫で下ろす。

 スプランディッド家は6人家族であり、当主であるアドニスと長兄のトロン、長女のウーが藍閃らんせん騎士団に所属している。父アドニスは藍閃騎士団の弓兵隊を統括しており、フォルスとは20年来の戦友。長兄のトロンはフィジカルに優れる屈強な騎士で、現在はカメリアと共に北部の防衛にあたっている。

 ウーとてルミエール家に仕えし騎士だ。同じく戦場に生きる父と兄に関しては、最悪の事態を受け入れる覚悟は出来ている。しかし、非戦闘員である母と幼い双子の兄妹に関しては話は別。三人が脱出したと聞き、一先ずは安心できた。


「クラージュのご家族も、同じ馬車でロゼ領まで避難させたわ」

「それを聞いて安心したよ。今のアルミュール家で戦えるのは、当主である私だけだから」


 昨年、先代当主であった父を病で喪い、クラージュは19歳の若さでアルミュール家の当主の座へとついた身だ。家族は母親と、今年で13歳となる弟が一人。弟に関しては来春より従騎士として藍閃騎士団へと所属する予定だったのが、その前に此度のアマルティア教団の侵攻が発生した。持ち前の正義感もあり、本人は故郷のために戦いたい心境だっただろうが、騎士団に所属する前である以上、弟はまだ民間人の少年に過ぎない。弟を戦渦に巻き込まずに済んだことは、クラージュにとっては不幸中の幸いであった。


「……会議でも報告したけど、ルミエール領の現状は悲惨よ。収穫期を迎えていた農作物は魔物の襲撃で壊滅的な被害を受けた。その際に命を落した関係者も少なくないし、防衛にあたる騎士達の疲労も日に日に蓄積している。ルミエール始まって以来の危機的状況であることは間違いないわ」

「アマルティア教団の活動が本格化してきた以上、遠からず激戦に身を投じることは覚悟していたが、よもやその戦地が、故郷であるルミエールになろうとはな」


 クラージュは逸る気持ち抑え込むかのように、何度も何度も、右の拳を左の掌に打ち付けている。

 直ぐにでもルミエール領に馳せ参じたい心境だが、部隊の休息や補給の問題から、今晩はグロワールにて夜を明かし、出立は早朝の予定となっている。グロワールからルミエール領までは最短でも2日程はかかるので、物理的にもすぐさま駆けつけることは難しい。到着するまでの間に、戦況が悪化しないことを祈るばかりだ。

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