第28話 熱情と執心
ビーンシュトック邸を離れたニュクスは、王都の外れにある現在は使われていない古びた
「……人間らしい奴が、暗殺者なんてやってるかよ」
去り際にファルコに言われた一言が、小骨のように心に
暗殺者となったことを後悔なんてしていない。暗殺者になったからこそ、あの子と再会を果たすことが出来た。
約束を果たし、あの子の居場所を捜し出してくれたクルヴィ司祭には感謝してもしきれない。いまさら帰れる場所なんてないし、一般人に戻るには両手を血で汚し過ぎた。大恩あるクルヴィ司祭のため、暗殺者として命令を果たしていく生き方に迷いはない。
クルヴィ司祭が最も警戒を示している英雄の原石、ソレイユ・ルミエール。彼女の暗殺を果たすことは、恩人に対する何よりの孝行になるはずだ。
ソレイユの信頼を得るため、顔見知りではないとはいえ、同じアマルティア教団の人間だって殺した。それは獲物に手を出されたことに対する怒りの感情から来るものでもあったが、いずれにせよそんないかれた人間が人間らしいはずがない。人間であってはいけない。
「……絶対に殺してみせる」
ソレイユ・ルミエール暗殺を果たしたなら、きっと
「やっと見つけた」
気配には最初から気付いていたので、突然顔を覗き込まれても驚きはなかった。事前にカプノスから教団のアサシンが王都入りしているという情報を得ていたことも大きい。
時間帯やシチュエーションこそ異なるが、それはまるで初めて出会った時の再現のようでもあった。
「ロディア」
「二人きりの時くらい、昔の名前で呼んでもいいんだよ?」
「昔の名前ではもう呼ばないと、二人で決めただろ」
「そうだっけ――」
寝そべったままのニュクスの唇に、ロディアは自身の唇を重ねた。数カ月ぶりの再会を喜び熱情の赴くままに舌をねじ込み絡ませる。ニュクスは拒まず、ロディアの気の済むままにと己を委ねる。再会を果たしたあの日から、彼女の愛は全て受け入れようと決めていた。例え昔の彼女でなくとも、その愛が歪んでいようとも。
「美味しい……」
情熱的な接吻を終え、唇と唇とを糸が引いた。
「激しいな。少しだけ苦しかった」
「数カ月ぶりの再会だもの。こんなにニュクスと離れ離れになることなんて滅多にないから、私、寂しくて……」
ロディアは甘える幼子のようにニュクスの胸に顔を埋めた。ニュクスは幼子をあやすかのように、ロディアの頭を優しく撫でてやる。お互いに子供の頃とは随分と変わってしまった中、甘えようとするロディアの姿だけはあまり変わらない。
「長い任務なんてさっさと終わらせて、早く私のところに帰って来てよ。あなたがいないと私は駄目なの」
「……なかなか難しい任務だからな。一度手痛い目に
「だったら、今夜はきっとチャンスだよ」
ロディアを撫でるニュクスの手の動きがピタリと止まった。
「どういうことだ?」
「ニュクスの暗殺対象の女、今はビーンシュトックとかいう貴族の屋敷にいるんでしょう? 今夜、私達はそこを襲撃する」
「……標的は?」
「アルカンシエルの王子様。私達以外にも、別部隊が王城の方にも向かっている」
「現場を誰が仕切ってる? エキドナか」
王族の暗殺などという大それた任務。協調できるかは別としてまとめ役の存在は必須だろう。そんな器用な真似が出来る実力者とくれば、エキドナあたりだろうかとニュクスは想像したが、
「アントレーネだよ。エキドナは今、別の任務で国外だから。今日になって王子様の会食相手があの女だって判明したんだけど、まさか、ニュクスの暗殺対象が同じ屋敷に居合わせるとは思わなかったって、アントレーネが凄く驚いてたよ」
「……あのお嬢さんが友人の危機を見過ごせるはずがない。暗殺部隊と衝突するのは必至だな」
「……暗殺は間もなく決行される、だから、隙を見計らってニュクスもあの女を殺しちゃいなよ。誰も獲物を横取りなんてしない。殺すのはあくまでもあなた自身。屋敷の戦力が一人でも減れば王子の暗殺の成功率も上がるし、一石二鳥、いや、ニュクスが私の下に帰って来れるんだから一石三鳥だよ」
「……戦いの混乱で隙が生まれるくらいならとっくに殺せてる。お嬢さんは侮れ――」
「気に入らない!」
激昂したロディアがニュクスの言葉を遮った。
「私の前で、他の女の顔なんて想像しないで……」
一転、激情は悲しみの色へと変化し、ロディアの瞳から涙が伝い落ちる。
「違う、俺は――」
「例え殺すための
ロディアはニュクスの体へと馬乗りになり、身に着けていた黒いブラウスを荒々しく脱ぎ捨てる。下着も剥ぎ取り、色白な美しい上半身が露わとなる。
ニュクスの右手を強引に引き上げ、ロディアは自身の色白な左の乳房に触れさせた。感触を確かめろと言わんばかりに、自身の乳房へと強引にニュクスの手を押し付ける。
「今すぐ、あなたの心を私だけで満たしてあげるから――」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます