第20話 ソレイユ陣営

 王都到着の翌日。この日ソレイユは王国騎士団からの招きを受け、再び騎士団本部を訪れていた。ある人物が、ヴェール平原の一件やグロワールの竜撃について、当事者たちの生の声を聞きたいと願い出たのだという。今回は臣下の三人に加え、ニュクスとファルコもしっかりと同席している。王族との会合の場ではないこと、体験を語る上で二人の存在が不可欠なことなどから、昨日苦言を呈してきた幹部連中にも今回は文句を言わせなかった。


「お会い出て来て光栄です。ソレイユ・ルミエールさん。此度こたびは私めの我儘わがままを聞いて頂き、ありがとうございます」

「我儘だなんてとんでもありません。自身の見聞きした情報について周知するのも連合軍の一員としての立派な務め。それに、かのゾフィー・シュバインシュタイガー様とお会いする機会を得られたことは、我らにとっても大変有意義なことです」


 ソレイユ達を招いたのはシュトルム帝国の遣わした特使にして、豪傑と名高い「アイゼン・リッターオルデン(くろがね騎士団)」団長――ゾフィー・シュバインシュタイガーであった。この場には、黒騎士――ベルンハルトを含め、騎士団所属の戦士が3名参席していた。騎士団の名を表すかのように、全員が黒衣に身を包んでいる。


 木製の長机を挟んで、窓側にアイゼン・リッターオルデン。廊下側にソレイユ一行。ゾフィーとソレイユを中心に向かい合っている。


「様などと、堅苦しい敬称は不要ですよ。大陸全体で見ても女性の指揮官というのは珍しい。連合軍に参加する同胞どうほうとしても私個人としても、ソレイユさんとは仲良くしていきたいと思っています」

「でしたらお言葉に甘えて、ゾフィーさんと呼ばせていただきます。私も女性指揮官と会う機会は少ないので、こうして交流できることをとても嬉しく思います」

 

 ファーストコンタクトでのお互いの高感度は上々。ゾフィーはうららかな微笑みを浮かべてソレイユの手を取った。国や立場は違えど、互いに戦場の最前線へ出ることもいとわぬ女傑じょけつ同士。通じ合うものもあったのだろう。


「簡単にではありますが、同席した面々についてご紹介させていただきます」


 堅苦しい雰囲気こそないが仮にもゾフィーは他国の大使だ。目下の者の礼儀と、先ずソレイユの方から切り出した。


「私の右隣におりますのが、藍閃らんせん騎士団所属の斧騎士、クラージュ・アルミュールです。若輩者の私を支えてくれる、良き参謀役でもあります」

「クラージュ・アルミュールと申します。この場に参席出来たことを、心より嬉しく思います」


 紹介に預かり、クラージュは深々と頭を下げた。かの黒騎士やアイゼン・リッターオルデンを前にしても物怖じせず、とても堂々としている。まだ若いとはいえ、ルミエール領を代表する騎士の胆力は相当なものだ。


「その隣が藍閃騎士団所属の弓騎士、ウー・スプランディッド。藍閃騎士団の誇る、ルミエール領一の狙撃手です」

「ウー・スプランティッドです」


 穏やかな表情でウーは頭を下げる。ソレイユからのほまれに対して謙遜けんそんは口にしない。主君からの評価を素直に受け取らないのはむしろ失礼というものだ。


「私の左隣におりますのが、私直属の臣下で魔術師のリス・ラルー・デフォルトゥーヌ。臣下である同時に、私の良き友人でもあります」

「リス・ラルー・デフォルトーヌです」


 緊張を含んだ表情でリスが自らの名乗る。緊張の原因は席順的に、屈強なベルンハルトと向かい合っていることも大きいだろう。


「その隣がグロワールで契約を結んだ傭兵のファルコ・ウラガ―ノ。先の竜撃終結の功労者でもあります」

「アルマ出身の傭兵、ファルコ・ウラガ―ノと申します。傭兵故に他の者とはやや立場が異なりますが、ソレイユ様のお力になりたいという気持ちは皆と同じです」


 下げた頭を上げた瞬間、ファルコとベルンハルトの目が合い、先日の対面を思い返すかのように一瞬、笑みが交錯した。


「最後にニュクス。彼は元は旅の絵描きだったのですが、その戦闘能力を見込み、戦力として力を貸して頂いています」

「ニュクスです。以後お見知りおきを」


 この時もやはりベルンハルトと視線が合った。ニュクスの方は無表情だが、ベルンハルトの方は口元に笑みを浮かべている。想像以上に早かった再会が嬉しいのだろう。

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