第14話 堅苦しい再会
「久しぶりだな。ソレイユ」
「ご無沙汰しております。一年半ぶりくらいでしょうか」
ソレイユ達が騎士団本部へ到着してから40分後。王城での会議を終えたシエル王子が到着し、二人は二階の応接室にて、再会を祝してハグを交わしていた。
シエル王子の背後にはソレイユたちを案内してきたギュスターブ・カプトヴィエルと、もう一人の
コゼットはサイドテールにした金髪が印象的なスレンダーな美女で、強面な(内面はとても穏やかだが)カプトヴィエルとのツーショットはさながら美女と野獣だ。
王族の近衛騎士を任されるだけありコゼットもとても優秀だ。彼女は魔術と剣術を併用する魔術騎士であり、あらゆる局面に対応できる汎用性を持つ。頭脳明晰で気配り上手でもあり、カプトヴィエルと共にシエル王子を支える有能な左腕だ。この日も近衛騎士としてシエル王子に付き従っており、王城での会議を終えたシエル王子と共に騎士団本部へと到着した次第だ。
近衛騎士二人のさらに後ろには、先程ソレイユと一悶着あった古参の幹部連中も顔を連ねている。王子が到着した以上、幹部が顔を出すのは当然といえば当然だが、シエル王子はソレイユとのもっと気楽な再会を期待していただけに、内心ではやや苛立っている様子だ。
「クラージュ、ウー、そなたらとは対策会議の際には世話になったな。
「勿体なきお言葉です、シエル様。藍閃騎士団に籍を置くものとして、この上ない喜びにございます」
クラージュとウーが同時に深々と頭を下げた。そんな二人の様子を見て、シエル王子は苦笑する。
「そう固くならなくともよい。ソレイユはもちろんのこと、お前たち藍閃騎士団の者達との付き合いは長い。以前のようにもっと砕けた口調――」
言いかけて、背後の古参幹部の方から威圧的な咳払いが聞こえてきた。
顔が見えていないのをいいことに、「この程度の言葉も許されないのか」とシエル王子は歪めた顔で口を尖らせたが、反論は口にせず、長めに息を吸うことで気持ちを落ち着かせた。精神的に未熟な数年前だったら、我慢しきれずに怒鳴り声を上げていたかもしれない。
シエル王子としてはもっと友人同士のような近しい距離感で皆と接したいところなのだが、伝統や気品を重んじる古参幹部たちの前ではそういうわけにもいかない。ここは我慢時だ。
シエル王子の人と成りをよく知るクラージュたちは事情を察しており、アイコンタクトと頷きで「よいのです」とシエル王子を諭していた。
「リスは久しいな。相変わらず本の虫か?」
「はい。変わらず読書は大好きです」
数年振りの対面だったので、「以前あった時より背が伸びたな」とか、「好き嫌いは減ったか」とか、親戚のお兄さんのような目線で色々と話しかけたい心境ではあったのだが、先の反応を見るに古参幹部の反応を思わしくないだろう。ソレイユ一行とはいずれ、誰にも邪魔されずにゆっくりと話せる場を設ける予定なので、思い出話などはその時まで取っておくことにした。
「ヴェール平原での一件や先の竜撃の報告は受けている。見事な活躍だったな」
「お褒めに預かり光栄ですが、最良だっとはとても言えません。救えなかった命も少なくはなかった」
「そう自分を責めるな。お前はよくやった。これから我らは共に連合軍で戦う同士だ。アマルティア教団の脅威を二度退けたお前の力、頼りにしているぞ」
「はい! ソレイユ・ルミエール、全力を持って連合軍での任にあたらせて頂きます」
「相変わらず、お前は良い目をしている」
シエル王子が労いと激励の意味を込めて、ソレイユの右肩に優しく触れた。
「皆、済まないが、少しだけソレイユと二人きりにさせてもらえないだろうか?」
「承知しました。我らはしばし席を外しましょう」
「話しがお済になられたら、お声がけください」
「し、しかし、王子の側に幹部が付き添わないというのは」
「王子といえども一人の人間。友人との久しぶりの再会に水を注すのは、野暮というものですわ」
近衛騎士の二人が快く頷いた。背後の古参幹部連中は納得いかない様子だったが、二人にやんわりと説得され、一人、また一人と応接室の外へと追いやられていく。
「我らも外します。ごゆっくりと」
「ありがとう、クラージュ」
シエルの意を汲みクラージュを先頭にソレイユの臣下たちも席を立つ。二人が幼馴染同士であることは周知の事実。王族と貴族という堅苦しい関係を抜きにして、友人としての再会を楽しんでもらいたいという気持ちは皆同じだ。
「ウー、クラージュ。さっきはすまなかったな、気を悪くしないでくれ」
すれ違い様に、幹部連中に聞こえないようにシエルが小声で呟いた。
「気にしておりませぬよ。お心はどうあれ、立場というのは常について回るものですから」
「熱血漢な王子もかっこいいですけど、大人びた姿もかっこよかったですよ」
「懐かしい雰囲気だ」
やはりこのくらいの距離感が一番気楽でいいなと、シエル王子は心底嬉しそうに笑い、クラージュ達の後ろ姿を見送った。
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