第12話 王国の現状
「さてと、時間を潰すにしてもどうしたものか」
「一緒に観光でもするかい?」
「野郎二人で王都観光。さぞ楽しそうだ」
「言ってみただけだよ。僕だってどうせ一緒に観光するなら女の子とがいいさ」
王国騎士団本部近くの広場のベンチで、ニュクスとファルコは退屈そうに皮肉の応酬をしていた。
あの後、一行は王国騎士団の本部へと招かれ、王城での会議に出席中だというシエル王子の到着を待つこととなったのだが、そこで思わぬ事態が発生した。
格式を重んじる騎士団の古参幹部から、ニュクスとファルコがシエル王子との会合に同席することに苦言が呈されたのである。誉れ高きアルカンシエル王国騎士団本部にて王族との面会が許されているのは騎士階級や貴族、それに仕えし臣下のみ。正式な臣下ではないニュクスと一介の傭兵に過ぎないファルコにはその資格が無いというのが、古参幹部の言い分であった。
もちろんソレイユはその言い分にすぐさま反論し、一行を案内したカプトヴィエルもソレイユに同意し、「そんなことはシエル様は望まぬ」と強い言葉で反論してくれたが、頭でっかちな幹部連中に言葉が届くことはなかった。
それでもなおソレイユは食い下がろうとしていたが、それを制したのは他でもないニュクスとファルコの両名であった。ニュクスは自身が場違いな人間であることを大いに理解していたし、高圧的な態度に反抗するような熱い性格でもない。世慣れたファルコも幹部連中の態度などどこ吹く風といった様子、むしろソレイユの立場を悪くしないように
二人の様子を見て、ソレイユは熱くなり過ぎた自身を顧みて、冷静さを取り戻した様子。本心はどうあれ、申し訳なさそうに幹部連中に頭を下げ、王子との面会の場には二人は同席させないことで同意。悶着は一先ず終結した。
そのままソレイユと、クラージュら臣下3人は王子の到着を待つべく、騎士団本部二階の応接室へと通され、ニュクスとファルコの2人は幹部連中を刺激しないよう、そそくさと騎士団本部を後にした次第だ。
宿泊予定の館に向かっていてもいいのだが、ソレイユを差し置いて先に館で休んでいるのは気が引ける。そのため、近場で適当に時間を潰していようということで二人の意見はまとまっていた。
「以前に王都に立ち寄った時よりも
「確かに、怖い顔の衛兵がそこかしこにいるね。それに、人の往来こそ多いけど、心なしか行き交う人々の表情もどことなく優れない。みな一様に不安気だ」
二人が今いる広場は市場や繁華街にも程近い王都の中心地だ。当然、人の行き来が多く、それなりに活気はあるのだが、俯きながら歩いたり、溜息交じりに会話をしていたり、
「タイミングがタイミングだからな。アマルティア教団の
アルカンシエル王国の現国王――トルシュ・カンセ・アルカンシエルは、公表こそされていないが大病を患い病床に伏せていると噂されている。昨年より国王が公務に参加する機会は激減しており、その大半を、幼いレーブを除く5人の子供達が執り行っている。国王が最後に公の場に姿を見せたのは三か月前。その時の姿も酷く
実際のところ、噂は真実だ。王国側とて
混乱の続きの状況下で、さらなる不安を
噂という形で結局は不安が
幸いだったのは、次期国王であるドゥマン王子を筆頭に、子供達がとても優秀だったことだろう。国王不在でも王政は滞りなく行われ、ドゥマン王子とフィエルテ王子が共同で提案したある政策に関しては、絶大な効果をもたらし多くの王侯貴族から高い評価を得た程だった。
現国王は無能でこそなかったものの有能とも言えず、威厳、政治的能力共に平凡の域を出てはいなかった。平和な時代だったからこそそれでも問題は無かったが、近年では外交上のトラブルを収拾しきれず、シュトゥルム帝国との関係を悪化させてしまうという失態を犯し、一部の王侯貴族からの支持を著しく低下させてしまっていた。
故に、次期国王であるドゥマンを王子を中心とした王政運営に期待する声は多い。
兄弟仲も良好であり、ドゥマン王子を兄弟一同で支えていこうという意識を皆が共有している。後継者争いや内乱が発生する可能性は皆無であり、万全の状態で新体制を敷けることも評価点の一つだ。
それでも、時代が良かったとはいえ現国王の政権は30年以上と長期に渡り、国民に平和な日常を提供し続けてきたのもまた事実。そんな国王の大病は、間違いなく多くの国民に動揺を与える。そういった点ではやはり、状況が落ち着くまでは公表を避けることは必要な判断なのかもしれない。
「一般人でなさそうなのも、何人か往来に混じっているようだな」
ニュクスが一瞬意識を向けたのは、広場内の果物屋の屋台で商品を物色している
「
アマルティア教団の台頭や現国王の重病説を受け、アルカンシエル王国に大きな動きが起きる可能性がある今、各地から多くの密偵が王都へ入り込んでいた。今回の場合は時期国王、次期政権の力量を見極めるための情報収集の意味合いが強い。
「どうする? 一応衛兵に報告しておくかい?」
「別に放っておいても問題ないと思う。大国に密偵が入り込むのは世の常。それを理解した上で弱みを見せないのが統治者の資質ってものだろ?」
「一理ある。衛兵達も気付いた上でわざと泳がせているという可能性もあるしね」
などと言っている間に、密偵らしき女性の姿は繁華街方面の人混みの中へと消えていった。こちら側の視線には最後まで気づかなかったので、やはり密偵としてはお粗末だったのかもしれない。
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