第7話 見送り
「タチアナさん、ギスランさん。滞在中は大変お世話になりました」
「勿体なきお言葉です。ソレイユ様が次回この街を訪れた際も我らメイド一同、心を込めておもてなし致します」
「グロワールの街を救って下さったこと、深くお礼申し上げます」
竜撃終結から12日目の朝。
ソレイユ一行は王都方面である南の街道へと続く大きな門の前で、タチアナやギスラン・ダルヴィマールらオッフェンバック
この場にオッフェンバック卿は不在だ。復興支援に関する協議ために昨日より隣領へと出張しており、ソレイユらとは昨日の内にお別れを済ませていた。直接ソレイユ達を見送ることが出来ずにオッフェンバック卿は申し訳なさそうだったが、街の長として復興に関わる事柄は何よりも優先させなくてはいけない。護衛官の一人であるギスランをあえて街に残していったのは、せめて腹心の臣下にソレイユを見送らせたいというオッフェンバック卿の意向あってのことだった。
「オッフェンバック卿にもよろしくお伝えください。離れていようとも、同士としての私達の心は常に共にあります」
「必ずやオッフェンバック様にお伝えいたします。我らもこのグロワールの地にて、ソレイユ様のご健闘をお祈り致しております」
ソレイユとオッフェンバックの腹心であるギスランが固い握手を交わした。
近い将来、ソレイユが再びグロワールの地を踏む頃には、きっとアマルティア教団の脅威は去り、大陸には平和が訪れていることだろう。そう確信している二人の表情は、勇ましくも晴れやかなものであった。
「シモンの件はよろしく頼んだよ」
「前にも言った通りだ。俺らに任せておけ」
「状況が落ち着いたら、ちゃんとウラガ―ノに一報を入れるよ」
ファルコを送り出していたのは同郷でもあるジルベール傭兵団のリカルドとロブソンだ。共同で行った先日のシモンの部屋の整理も終了し、シモンの遺品の全てがジルベール傭兵団の預かりとなった。
顔の広い団長のジルベールの助力もあり、シモンの娘のマノンを看取ったシモンの友人夫婦とも連絡が取れたとのことだ。今後についてはその友人夫婦とも相談することになるが、シモンとマノンの親子は、シモンの地元にある妻の眠る墓へと埋葬されることになるだろう。
ファルコが墓参りに向かえる日は、まだまだ先になるかもしれない。シモンへ会いにいくのは、アマルティア教団の脅威から大陸を救い、その報告をする時にと心に決めているからだ。
「月並みな言葉だが、健闘を祈っている。俺達は傭兵だ。いずれまた戦場で肩を並べる時も来るだろう」
「次に会う時は、ゆっくり故郷の話でも語り合いところだね」
「ありがとう、リカルド、ロブソン。また会える日を楽しみしているよ」
激励の意味を込めて、三人はそれぞれの武器を掲げて打ち鳴らす。
共に過ごした時間は短く、あまり多くを語り合うことも出来なかったが、同郷同士、三人は確かな絆を感じていた。
「……はあ、リスちゃんが行っちゃうのは寂しいな」
「私も、もっとリスちゃんをナデナデしたかったです」
「……何でしょうか。ルミエール領にいた頃のデジャヴのような」
困惑顔のリスは、ジルベール傭兵団に所属する赤毛の女性剣士――ギラ・キルヒアイゼンと、銀髪の女性魔術師――イルマ・レイストロームの二人に、左右からギュッと抱きしめられていた。
竜撃を経て交流が生まれたソレイユ一行とジルベール傭兵団。傭兵団のお姉さま方二人は、華奢で顔立ちにも幼さの残るリスのことが大そうお気に召したようで、暇を見つけてはよくリスに会いに来ていた。ルミエール領のゼナイドといい、どうやらリスは年上のお姉さま方に好かれやすいタイプのようだ。
「あの二人のお姉さま方、ルミエール領のゼナ姉さんと気が合いそうだ」
などと口にしつつ、ニュクスは苦笑顔でリスの様子を眺めていた。
途中、リスが口パクで助けを求めてきたような気がしたが、気づかない振りをしてニュクスはその場から距離を置いた。恨めしそうなリスの視線にも、やはり気づかない振りをした。
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