第68話 竜撃終結

 アマルティア教団による大都市グロワール襲撃は、作戦を指揮していたキロシス司祭の死亡および、暴虐竜ぼうぎゃくりゅうアンゲルス・カーススを筆頭とする翼竜の軍勢の全滅をもって終結した。

 騎士や傭兵といった多くの戦士たちの活躍により、街の壊滅という最悪の事態は防ぐことが出来たが、突発的な襲撃故に被害は甚大であった。

 最も多くの犠牲者を出したのは、協力者として抱き込んだグロワール市民を利用した最初の襲撃だ。協力者を召喚の目印とし、往来おうらいや広場といった多くの人々が集まる場所に、同時多発的に複数の翼竜が出現、本能のおもむくままに虐殺を繰り返した。傭兵ギルドが存在し、ソレイユらも居合わせていた中央区付近や、騎士団の詰所つめしょが存在している街の北部や南部などは対応が早く、被害を最小限に抑えることが出来たが、中には戦力が滞在していなかった場所も相当数あり、防衛体制が整うまでの間に一般市民や衛兵に大きな被害が出た地域も少なくはない。オッフェンバックきょうの判断は迅速かつ的確で、戦力不足の問題も傭兵の雇用という形で一時的にではあるが解消していた。これが敵が外部から攻め入って来るような通常の襲撃であれば、ここまでの被害が出ることはなかったはずだ。

 少数精鋭でありながら、魔物を召喚することで戦力を何倍、何十倍にも増加することの出来るアマルティア教団の襲撃に対して、従来通りの対処法では完全に後手に回ってしまう。召喚された魔物による突発的な襲撃にどのように対処していくのか、これは今後の対アマルティア教団において大きな課題となることだろう。


 此度のグロワール襲撃による死者は現在確認されているだけでも853人。行方不明者も相当数おり、最終的な犠牲者の数は1000人を超える見込みだ。負傷者は街全体で2000人超え、翼竜の襲撃や戦闘の衝撃で倒壊した家屋や施設の数も500を超えている。

 これらの数字はアルカンシエル王国建国以来、過去4番目に大きな被害であり、都市部を狙ったものとしては過去最悪のものとなる。

 安全だとばかり思われていた都市部に、アマルティア教団の襲撃によって甚大なる被害が発生。この出来事は大陸全土に大きな衝撃を与えることとなった。


 この日グロワールの街を襲った災厄は、竜による襲撃――「竜撃りゅうげき」と呼ばれ、人々の記憶へと刻み込まれることとなる。




 後日、此度こたびの「竜撃」に関する詳細な情報は、アルべリック・オッフェンバック卿とソレイユ・ルミエールとの連名で書簡しょかんとしてしたためられ、王都へと送られた。グロワールが襲撃を受けた以上、今後、王都が狙われる可能性も十分に考えられる。伝承にその名の登場するアンゲルス・カーススや特殊な魔具まぐを用いた遠隔えんかく召喚しょうかんの存在などについての情報も提供。これまで以上にアマルティア教団の動向に注意する必要があると書簡上で求めていた。

 数日後には現状視察および、捕縛したアマルティア教団関係者を王都へと移送する目的で、王国騎士団の一部隊がグロワールへと到着する予定だ。その際には改めてオッフェンバック卿やソレイユ、最前線で戦ったグロワール傭兵団らもオッフェンバック卿の屋敷へと招集され、此度の竜撃に関して王国騎士団からの聞き取りを受けることになるだろう。


 勝利の立役者とも言えるファルコ・ウラガ―ノが招集に参加出来るかどうかは、現状ではまだ未定である。幸いなことに命に別状はなく、傷も順調に回復してきているが、大通りでの戦闘終了以来、彼はまだ目を覚ましてはいない。

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