第61話 集結せし戦士達
「流石に全てを仕留めるのは厳しいか……」
大通りの上空。アンゲルス・カーススの下へと集った翼竜の数はすでに20を越えていた。翼竜たちは今なお街中から集まり続けており、その数は分刻みで増加している。
ファルコはアンゲルス・カーススが街目掛けて吐き出す空気の塊――テルムを的確に排除しつつ、翼竜の群れにも切り込んでいくが、数が多すぎて一人では対処しきれない。
間の悪いことに大通りは、より安全な避難場所を求め、屋内から飛び出して来た近隣住民たちで溢れつつあった。アンゲルス・カーススの吐き出したテルムの破壊力を目の当たりにし、強い恐怖心を覚えてしまったが故の行動だろう。屋内に留まっていれば、少なくとも翼竜に食い殺されるリスクは防げたはずなのだが、いつテルムが飛んでくるかも分からぬ状況下で、戦闘能力を持たぬ一般市民に対し、恐怖に負けずに冷静な判断を下せというのも
しかし、状況は最悪以外の何物でもない。近隣住民が大通りへと殺到したことで場は大混乱。翼竜への対処に加え、近隣住民の安全確保にまで意識を向けねばならなくなった騎士や傭兵達の負担は、これまでの比ではない。
「嫌ああああ――」
大通りから噴水広場方面へと逃げ延びようとしていた10代後半くらいの少女が、翼竜の足に掴みとられて宙へと浮いた。爪が浅く食い込み、腹部からはじんわりと血がにじみ出している。
「だ、誰か娘を!」
父親らしき男性が必死に叫ぶが、騎士や傭兵達のほとんどは、いっせいに襲い掛かって来た翼竜の群れを迎え撃つだけで手いっぱい。中には住民の波に飲まれて自由に身動きが取れなくなってしまっている者もいる。少女を救っている余裕などない。否、混乱故に状況すらも把握出来ていない。
ファルコは遥か上空で、街に被害が及ばないようアンゲルス・カーススの吐き出すテルムへと対処している。一瞬でも気が抜けば地上が全滅しかけない緊迫状態。今すぐ地上の事態に対処することは難しい。
「お父さん!」
少女の命運尽きたかと思われた、次の瞬間――
「うらああああああ!」
大通り沿いの建物屋上から跳躍した影が、バスタードソードを豪快に振るい、少女を捕えた翼竜の両足を一刀両断した。少女の体は宙に放り出されが、幸いなことにまだそこまでの高度ではなかったので、父親ら数名の大人が受け止めることで事なきを得た。腹部の爪痕も命に関わる程の怪我ではない。浅く食い込んでいた爪を含む両足は、両断された瞬間には消滅していた。
両足を奪われ
「酷い顔だ」
顔面を翼竜の返り血で染めたシモン・ディフェンタールは、建物の窓ガラスに反射する自分の顔を見て苦笑した。視界に影響しないよう、持参していた手ぬぐいで目元を拭う。
「来たんだね。シモン」
アンゲルス・カーススの吐き出した二発のテルムを消滅させたファルコが、上空からシモンへと語り掛ける。緊迫した状況に変わりはないが、ファルコの声は心なしか少し弾んでいた。
「……傭兵失格の俺に何が出来るのかを考えてみたが、結局のところ、戦場で剣を振るう以外にやれそうなことは無かった。もう一度だけ、お前と共に戦わせてくれ。それが今の俺の正義だ」
「もちろんだ。もう一度君と共に戦えて、僕も嬉しいよ」
シモンの言葉に力強く頷くと、会話も程々にファルコはすぐさま身を
「ファルコ、地上に下りてきた翼竜どもは俺達が全てを片付ける! お前はそいつらから、グロワールの空を取り戻せ!」
この場に駆け付けたのはシモンだけではない。
翼竜たちは習性に従い、大通り上空のアンゲルス・カースス周辺で群れを形成しつつあるが、それは同時に、街中に点在していた翼竜たちが一か所に集まったということでもある。
ならば、各エリアで翼竜の迎撃にあたっていた戦力が、翼竜を追ってこの大通りへと集合することもまた必然。翼の有無で翼竜には出遅れてしまったが、一人、また一人と、各エリアから騎士や傭兵たちが姿を現しつつあった。
「ジルベール傭兵団の恐ろしさ、アマルティア教団の奴らに知らしめてやれ!」
ジルベール・クライトマン率いるジルベール傭兵団が大通りへと到着。ジルベール傭兵団は噴水広場周辺で計9体の翼竜を撃破するという大活躍を見せ、団長のジルベールおよび6名の部下は全員生存。流石に無傷とはいかなかったようだが、戦闘に支障するような大きな怪我をした者はおらず、全員が顔を揃えての参戦となった。
「ここが正念場だ。我らが愛するグロワール街を絶対に守り抜くぞ!」
グロワール騎士団の本隊も大通りへと到着。戦闘経験の差からこちらは犠牲者も多かったようだが、それでも30名近い騎士が武器を手に大通りへと集結した。後方には衛兵隊の姿もあり、さっそく非戦闘員の避難誘導へと努めている。
その後も個人、団体を問わずに傭兵や騎士達が大通りへと続々集結。
今ここに、アンゲルス・カースス率いる翼竜の軍勢と、グロワールの街の戦士達による最終決戦が開始されようとしていた。
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