第33話 暗殺者VS槍使い

「あんた、相当強いな」


 ニュクスは持ち前の俊足で一気に間合いを詰め、二刀のククリナイフで槍使いへ斬りかかる。小細工が通用しないのなら話は簡単。純粋な戦闘能力で相手を切り伏せてしまえばいい。


「君もなかなかやる。初撃をかわされた時は、正直驚いたよ」


 微笑みを浮かべつつ、槍使いはククリナイフが撃ち込まれるポイントを捉え、何度でも確実に、槍の槍頭やりがしらで刃を弾き返していく。ニュクスの攻撃速度を前に守勢しゅせいではあるが、動作の一つ一つに無駄がない。一瞬でもニュクスが隙を見せれば、槍使いは容赦なく命を穿うがちに来るだろう。


「背中のは使わないのか?」

「そっちはとっておきでね。滅多な事では抜かないんだ」


 瞬間、クロスされたニュクスのククリナイフを槍の柄で受け止め、槍使いは力強くそれを弾く。ニュクスが後退したことで、二人の間には距離が生まれた。

 刃を交え、互いに相手の力量を理解したからこそ、直ぐには仕掛けず、武器を構えたまま均衡きんこう状態となる。


「今は滅多な事じゃないのか?」

「気を悪くしないでくれ。君はとても強い。ただ、二本目は人間相手に抜くような代物しろものじゃないというだけの話さ」

「そいつは興味深いね。あんたが二本目を抜いたら、俺は人間を越えるわけだ」

「面白い発想だ。そういうのは嫌いじゃないよ――」


 槍使いの強烈な刺突によって戦闘再開。

 ニュクスは素早く横に跳んで刺突を回避すると、勢いそのままに廊下の壁を蹴って一気に接近、ククリナイフを槍使いの脇腹を目掛けて見舞った。

 しかし、槍使いの反応速度も負けてはいない。槍の石突いしづき(刃部と逆側の先端)を咄嗟とっさに後方へと打ち出し、石突と接触したククリナイフがニュクスの手から弾け、宙を舞った。


「ちっ」


 拾い直すを時間を惜しみ、ニュクスはククリナイフ一本で槍使いへと迫る。対する槍使いも神経を研ぎ澄まし、正面からそれを向かい打つ。


「盗賊にもあんたみたいな実力者がいるとはな。仲間割れした盗賊どもも可哀そうに」

「君の方こそ、まさか盗賊の残党にこれ程の者がいたとは、正直驚いたよ」


 両者が肉薄した瞬間、


「ん?」

「あれ?」


 互いに相手の言葉に違和感を覚えた瞬間、槍の先端はニュクスの首の数センチ手前で、ニュクスの振るったククリナイフは槍使いの首の数センチ手前で、それぞれ静止した。


「その口振りだと、俺が盗賊の仲間みたいじゃないか……」

「君の方こそ、仲間割れだの何だの、訳の分からないことを……」


 数秒間の沈黙の後、全てを察したかのように、お互いに苦笑いを浮かべた。


「もしかしてあんた、盗賊じゃない?」

「僕は傭兵だよ。盗賊の討伐とうばつと、さらわれた女性達の救出のためにここへやって来た。そういう君は?」

「俺はとある貴族の令嬢れいじょうの護衛みたいなものだ。グロワールへ向かう途中に旅行者を襲撃する盗賊と遭遇してな。今はその延長線上だ」


 言葉に出したことで疑惑は完全に氷解ひょうかい。互いに武器を下ろし、二人同時に声を出して笑った。


「ごめんごめん。まさか盗賊以外の人間が屋敷にいるとは思わなくて。ただ者ではない気配だったし、咄嗟に攻撃してしまったよ」

「俺の方もこそ、勝手にあんたを盗賊の仲間だと決めつけていた。お互い様って奴だな」


 直前まで命のやり取りをしていた者同士とはとても思えない。まるで世間話でもしているかのような調子だ。


「ここには君一人で?」

「屋敷の中にはもう一人いる。西側を探索しているはずだ。屋敷の外にも二人待たせている」

「西側にもう一人か。もしかしたら、一緒に来た僕の傭兵仲間と鉢合わせているかも――」

「弓を収めろ……ひいいいいいいい――」


 槍使いの台詞を遮るかのように、突然、屋敷のエントランスの方から、男性の焦った声が飛び込んできた。


 その声に、槍使いは心当たりがあるようで、


「あれは、僕の連れの声だね」

「ちなみに、俺の連れは弓使いだ」

「なるほど、状況には何となく察しがついたよ」

「俺もだ。弓使い殿が早まらなければいいが」


 万が一ということもあるので、二人は急ぎ、エントランスへと駆けた。

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