第30話 瞬殺
「たった2人で俺達とやり合おうとは、どうやら恐怖で頭がおかしくなっちまったらしい」
4人の内、武器を抜いているのはたったの2人。抵抗する意志がある以上、多少は腕に自信があるのだろうが、数の暴力の前ではそんなものは無意味だ。外見でしか敵を測れぬ盗賊たちはすでに勝利を確信しており、後のお楽しみのことで頭がいっぱいだった。
「不運だったな兄ちゃん」
一番悲惨なのは、男であるが故に商品にもならず、この場で死ぬことが確定している灰髪の優男。頭目は見下すように同情を口にした。
「お前が女だったら、少なくともこの場で死ぬことはなかったのに」
「誰が死ぬって?」
「お前にきま――」
最後まで言い終えぬまま、頭目は絶命していた。
刹那の間に接近したニュクスに、首を裂かれたことを理解せぬままに。
「と、頭目――」
状況に思考が追いつかず、隣にいたスキンヘッドの盗賊は、
瞬間、スキンヘッドの男の側頭部に、ダガーナイフが
「な、何だこい――」
最後まで発言させてもらえぬまま、ニュクスの背後にいた盗賊は、ニュクスがスキンヘッドの盗賊の腰から奪い取った手斧を後ろ手に
「囲め! こいつやべえぞ!」
ようやく事態の深刻さを理解したのだろう。武器を構えた8名の盗賊が、いっせいにニュクス目掛けて襲い掛かったが、
「周りがまるで見えてない」
馬上のウーは盗賊目掛けて矢を三連射。一本は長剣を持った盗賊の首を横から貫通、一本は石斧を掲げた盗賊の頭部を一撃、一本はニュクス目掛けて投擲された手斧を撃ち落とした。
「大した腕前だ」
ウーの技量に感心する程度にはニュクスは余裕だ。正面から襲い掛かって来た二人の盗賊を二刀のククリナイフで切り結び、すぐさま背後に回し蹴りを放ち、つま先の仕込み刃で長身の盗賊の喉を裂いた。
続けざまに右側面から槍による刺突が襲来したが、最小限の上半身の動きだけでそれを回避。コートに潜ませていたダガーナイフを抜き放ち、眉間を射抜いてやった。そのまま槍を奪い取り、手斧で攻撃をしかけてきた遠方の盗賊目掛けて投擲、槍は盗賊の胸部を貫通した。
遠方から飛来した矢は槍を持っていた盗賊の死体を盾にしてガード。その隙をついてウーが敵の射手二名を正確に射抜き、完全に無力化した。
「化け物かよ……」
流石の盗賊達も戦意を
「くそっ、だったら!」
一人の盗賊が、ニュクスとウーから少し離れた位置にいた、馬上のソレイユ目掛けて矢を放った。最早、捕えることなんて
「まったく。困った方々ですね」
目にも留まらぬ速さでソレイユがタルワールを抜刀。矢は刃との接触で軌道を逸らされ、あらぬ方向へと飛んでいった。
「……矢の軌道を刀で変えやがった。化け物ばかり――」
「弓矢如きで殺せたなら、俺も苦労しなかっただろうな」
ソレイユを攻撃した盗賊に同情の言葉をかけると同時に、ニュクスは背後から回したククリナイフで
「まともにやり合っても勝ち目はねえ! 撤退だ」
頭目は早々に死に、戦闘員の半数が死傷。敗走以外に、盗賊たちに残された道は無かった。
ソレイユからの指示は火の粉を払うことだけ。ニュクスとウーは一度武器を収めた。
「この後はどうする。追撃でもするか?」
「放っておきなさいと言いたいところですが、盗賊たちの口振りから察するに、アジトには
「救出に行くと?」
「お手伝いしてくださいますよね?」
「もちろん」
いつになくニュクスは即答する。
個人的感情を表には出さないが、ニュクスは盗賊や人攫いといった人種が心底嫌いであった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます