第18話 人選
フォルスの帰還から二日後。
ソレイユの呼び掛けにより、一部の臣下達が屋敷の会議室へと招集された。
魔物討伐の任務等で不在の者も多いが、リスやクラージュといったソレイユに近い臣下は全員出席している。クラージュの婚約者のウーや、メイドのソールの兄――カメリアの姿もある。もちろんニュクスも出席しており、椅子には掛けず、いつものように腕を組んで壁に背中を預けていた。
ソレイユからすでに答えを聞いてるのだろう。領主のフォルスや騎士団長のドラクロワは、この場には同席していない。
「先日お話した通り、私は対アマルティア教団を目的として結成される連合軍に参加すべく、近日中に王都へと出向することとなりました。同行して頂く方々を決定いたしましたので、これから一人ずつ、名前をお呼びします」
一同の視線がソレイユに集まる。
ソレイユは一度目を伏せ、一呼吸置いてから一人目の名前を呼んだ。
「まずはクラージュ。戦闘はもちろんのこと、参謀役として戦略等の補助を行って頂きます。大役を任されましたが私はまだ未熟の身。あなたの力を貸してください」
「承知しました。クラージュ・アルミュール、全力を持ってソレイユ様をお守りいたします」
自分が選ばれることは予想していたのだろう。
クラージュは冷静かつ力強く、ソレイユからの指名に応えた。
妥当な人選だと思ったのだろう。他の臣下たちは納得した様子で頷いている。
「次にリス。魔術による広範囲攻撃と治癒魔術による回復が行えるあなたは、今回の任務に不可欠な存在よ。共に行きましょう」
「ソレイユ様と一緒ならば、どこまでも」
才能あふれる優秀な魔術師であり、ソレイユの付き人でもあるリスが選ばれることは必然だった。
危険の伴う任務ではあるが、リスはソレイユの力になれることが何よりも嬉しいようで、表情には一切の不安が感じられない。
「ウー。長期の任務明けで申し訳ないけれど、あなたにも同行してもらいたいの。今回の任務には、あなたの正確無比な狙撃技術が必要よ」
「喜んでお付き合いいたします。わたしの弓は、主君と愛する者のために奉げると誓っていますから」
ソレイユの願いをウーは快諾した。
主君からの命であることはもちろん、今回の任務に参加するということは、婚約者であるクラージュと離れ離れにならずに済むということでもある。断る理由など何もない。
「最後にニュクス。あなたにも同行して頂きます」
瞬間、会議室内が騒めきたった。
騒めきの中心は、先日王都から帰還したばかりの
「何故あのような者を」
「危険すぎる」
ニュクスへの不信感から、騎士達は一様に不安を口にした。
地元であるルミエール領内に比べて、旅路ではソレイユの身辺警護が薄くなるし、
「静まれ。まだソレイユ様がお話しの途中だよ」
そう指摘したのはカメリアであった。騎士達は気まずそうに閉口し、会議室内はいったん平静を取り戻す。まだ若いが高い実力を持つカメリアには、騎士団内でもそれなりの発言力があった。
「ありがとうカメリア」
一言を礼を述べた後、ソレイユは今回の人選の理由について語り始める。
「我がルミエールの騎士は皆、優劣つけ難い精鋭ぞろいですが、少数精鋭で臨む今回の任務の性質上、より連携を取りやすい者達で臨むべきだと考えました。出立まであまり時間がありませんから、共に領の防衛にあたっていた者を中心とした人選となっています」
少数精鋭に求められるのは、個々の戦闘能力とそれを十二分に生かす連携。これが、人選にあたってソレイユが導き出した答えであった。
ソレイユが最も連携を取りやすいのは、付き人としても共に過ごす時間の多いリスと、昔から共に戦闘に
しばらく領を離れていたとはいえ、ウーも元々はソレイユと共に行動する機会の多かった一人だ。婚約者であるクラージュとは戦場での相性もピッタリで、少数精鋭という性質上、リス以外にも遠距離から攻撃出来る人員が必要であった。
「本当に俺でいいんだな?」
「決断に迷いはありません。お力をお貸しください」
「お嬢さんのお願いとあらば喜んで」
いつもの調子で、ニュクスはソレイユからの指名を快く受け入れた。
騎士たちの視線は冷ややかだが、周囲の敵意などニュクスは端から気にしてない。
ニュクスはソレイユとの契約によって力を貸している身。
基本的にはソレイユ以外の人間の願いは聞かないだろうし、そもそも彼に不信感を抱く者が大半である領内に一人残しておいても、双方デメリットしか発生しないだろう。ニュクスという人材を有効活用するには、ソレイユと共に任務にあたってもらうことこそがベストなのだ。
実際、ニュクスの戦闘能力の高さはソレイユもよく理解しているし、ここ一カ月間の魔物討伐等の活躍によって、ウー以外の三人とはある程度は連携も取れている。暗殺者という性質上、敵の気配を読む能力に長け、不意打ちへの対応能力も高い。毒物などに関する知識も豊富で、裏社会の事情にも精通している。こういった暗殺者ならではの個性は騎士達には代えられない唯一無二のものだ。ニュクスがソレイユの暗殺を継続しているという大きなリスクを度返ししてでも、ニュクスに活躍してもらうメリットの方がソレイユにとっては重要だった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます