第13話 共闘、援軍

 戦場に辿り着いたときにはすでに前線では王都側と魔王軍は激突していて、後方からの不意打ちは予測していなかったのか、待機している下級の魔物たちが残っているだけだった。


 二等の盾持ちとレイピアの女戦士は互いの背を合わせて、盗賊は魔物を牽制しつつ戦っている。そして二人のほうは――剣を振り回しながら進んでいくヴィオに、リースは植物魔法で支援しながら進んでいく。


 それぞれが互いを補いながら戦っているのは良い。かくいう俺は向かってくる魔物に対して木槌を振るう。戦闘用ではないが使えるな。


 戦いもそこそこに戦場の把握をするとしよう。近くにいた魔物を足蹴にして跳び上がれば辺りを一望できる。


「……ふむ」


 奇襲はほぼ成功と言えるだろう。だが、思いの外に早く対応されているな。中・上級の魔物が前線から数体こちら側に向かってきている。とはいえ、少数だ。どうにかなるとは思うが……何体かマズいのがいるな。二等とヴィオ、リースだけでは勝てるかどうか怪しい。俺が残ればどうとでもなるが、すでにこちらの存在に気が付いているヴァンパイアを放っておくわけにもいかない。


「いや――まだ増えるのか」


 落下し始めるのと同時に地面から湧き出してきた二体の魔物が見えた。継ぎ接ぎのフランケンと、四腕四刀のカミキリ。四天王よりは下だが、上級の幹部クラスだ。とはいえ、王都側の一等や近衛兵なら相手にできるはずだ。


 なら、俺のやることは決まった。


「っ、よし。まずは――」


 地面に降り立った瞬間、ヴィオとリースの下へ向かって駆け出した。


 あいつ等は強い敵がいるとなれば戦いたがる可能性が高い。何人かと協力してなら良いが単独では駄目だ。ほぼ間違いなく殺される。


 やはりどうやら、俺はあの二人に死んでほしくないらしい。


「雑魚は引っ込んでろっ!」


 身の程を弁えずに掛かってくる魔物を木槌で吹き飛ばし、戦場を駆け抜けていけば徐々に圧されていることに気が付いた。思った以上に魔物軍の流れが速い。こちらが全滅すれば魔王軍は王都側へと流れ込んでしまう。それだけは何としてでも阻止しなければならない。


 しかし、どうにも嫌な気配を感じる。……ああ、くそ。よりにもよってカミキリがこっち側に向かってきているのか。軽く一撃をお見舞いして足止めをするか、それともヴィオとリースの下に急ぐべきか迷うところだが――倒すことより、生きることのほうが先決だな。


「ヴィオ! リース! 伏せろっ!」


 頭を下げたところに木槌で振り抜くと、ヴィオとリースは俺と背中合わせになるよう構えた。


「ラビー、どこに行ってたの?」


「現状把握だ。今この戦場には俺でも苦戦する魔物が三体いる。その内の一体がこっちに向かってきているが俺は相手をすることができない。だから――」


「わかった! 私たちが倒せばいいんでしょ!?」


「違う。むしろ戦うなと言いに来た」


「ですが戦わなければ戦況は悪化しますよね?」


「ああ、だからせめて前線からの援軍か二等と組んで四人以上で戦え。それなら――」


 目の前の戦場に気を取られていたせいだろう。背後からやってきた二つの大きな気配に気が付かなかった。


「お前らぁああ! 稼ぎ時だ! 魔物共を狩り殺せぇええ!」


 俺たちの下にやってきたドムとミルファに続いて、その声を合図に山賊たちが一斉に魔王軍へと掛かっていった。


「お祭りがあるなら呼んでよっ!」


 やってきた二人は両刃斧と双剣で俺たちの周りにいた魔物を吹き飛ばして笑顔を見せた。


「予想外の援軍だ。ドム、ミルファ」


「光が見えてな。何かと思って向かってみれば途中でカザナから避難してきた者と会ったんだ。話は大体聞いた。俺たちも可能な限り助力しよう。その代わりと言っては何だが――」


「ああ、魔物の死体は好きにしていいぞ」


「よし。ミル、好きに暴れろ」


「よっしゃー!」


 飛び出していったミルファに触発されたのかヴィオとリースも追随するように魔力を高めて駆け出していった。


 予想外だが、悪くない展開だ。山賊も一人一人は強くないが、数人で一体の魔物を囲めば倒せないわけでは無い。とはいえ、問題は残ったままだ。


「ラビー殿、何やら強い者がこちらに向かってきているようだな」


「さすがにドムは気が付くか。あれの相手、頼めるか?」


「一人では厳しいが、力を合わせれば可能なはず。ラビー殿はどこへ?」


「ちょいとな。俺が相手をしないとならない奴がいる」


「なるほど。では、こちらが片付き次第そちらにも手を貸そう」


 そしてドムの構えた両刃斧に向かって駆け出せば、差し出された面の部分を蹴るのと同時に押し出された。


 飛ぶように上空を舞えば、視線の先に今まさに近衛兵の首元に噛み付こうとしているヴァンパイアの姿が見えた。もう戦闘に参加しているのか。


「お前の相手は――俺だろっ!」


 噛み付こうとする横っ面に跳び蹴り――もとい飛び蹴りを食らわせれば地面を滑るように吹き飛んでいった。すると、自然に俺とヴァンパイアを囲うように戦闘中の魔物と勇者、近衛兵たちが場所を空けた。


 さぁ――一騎打ちだ。

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