第2話 男の娘とメンズハンター
「メンハンやろーぜ!」
放課後、そんなキャッチフレーズで俺を誘う主はリージアだった。
メンハンとは、メンズハンターというマルチプレイのできる所謂狩りゲーなのだが、俺はこのゲームをリージアと小野寺きゅんの三人でよく遊んでいる。
しかし、どうもこのゲームは三人では盛り上がりに欠けるのだ。
そんなこんなで、四人目の仲間を探していたところ、リージアが見つけたらしく、紹介もかねて一緒に遊ぶことになった。
深雪にはリージア達と遊ぶと言って別れた。拗ねた目がとても愛らしく、深雪展が開催されたら満員御礼であろう。
俺たちは学校を出て集合場所に向かっていた。
「それで、四人目ってどんなやつなんだ?」
「ボクの友達だけど、なんと女の子なんだ。しかも、ボクみたいな美少女なんだ
ヨ。やったねカナタ! ボク以外でおっきくしちゃダメだヨ♪」
「お前はなにを言っているんだ……?」
「なんで私まで……」
隣で不満を漏らす楓。俺を見る目がとても冷え切っている。
「だってかえでっちもメンハン仲間だし。それにカナタと一緒にいたいでしョ」
「いたくないし! 近くにいるだけでおぞましい! 乳首を剃刀で剃りたい気分!」
「やめてください! 言葉で聞くだけでゾッとするのでやめて!」
町には同じ学校の制服を着た生徒がチラホラと窺える。もちろん全員男の娘なわけだが、周りの人達は特に気にしている様子はない。酷い詐欺だ。
なるほど、いま俺は両手に花の状態なのか、男だけど。
目的地は学校の近くにあるファミレスである。
学生の人気スポットのひとつで、ドリンクバーだけで何時間も耐久出来るのは素晴らしい点よね。店員さんは迷惑だろうけど。
「たしかお店の前で待っているみたいだから、行けばわかると思うよ」
お店が遠目から見える場所まで来ると、女の子が一人いるのが視認できる。
「あ、いたいた! おーい、しのっちー!」
そこにいたのは俺のよく知る女の子、四宮恵里だった
☆
「へー、しのっちってカナタの元カノさんなんだ」
「彼方君って両刀だったんだ」
「断じて違います」
別に隠すようなことでもないので正直に答える。
俺たちはドリンクを片手にゲームに興じるのだが、どうやら二人は俺と四宮の関係のほうに興味があるようでゲームそっちのけで問い詰めてくる。
「どうせカナタが不甲斐ないから振られたんでしょ」
「なんでわかるの? エスパーかよ、お前」
「甲斐なさそうだもんね」
「そういうかえでっちはカナタに振られたくせにー」
「う、うっさい! 彼方君の鼓膜破るぞ!」
「おい、なんで俺に矢が飛んでくるの? 理不尽すぎませんか?」
「私のことなんか忘れて、かわいい子をはべらせてるなんて嫉妬しちゃうな」
「いや……こいつらは……」
四宮は勘違いしている、こいつらは男の娘なんです。
そう思っていたが四宮は思いもよらぬ事を口にする。
「知ってるよ、リージアは女装した男の娘なんだよね?」
「お、おう。知ってたのか。つうか疑問とかないの?」
「うーん、確かに最初聞いたときは驚いたし信じられなかったけど、最近増えてるみたいだからね、男の娘」
そうだね、主にうちの学校で増えているね。
「そっちの小野寺さんも、もしかして男の娘?」
「うん、よろしくね四宮さん」
楓が友好的に対応すると四宮もそれに応えるように微笑む。その笑みを少しは俺にも分けていただけないだろうか。
なんだか最近は男の娘が日常化していて違和感が無くなってしまった。こうして 四宮のような一般人にも浸透しているとは、いよいよ日本も終了かもしれん。
いや、四宮の順応性が高いだけか。
「俺としてはリージアと四宮が知り合いということにビックリしてる」
「バイト先が同じなんだよね、しのっちはバイト先の先輩なんだ」
「リージアはいつも元気だから、お店も活気が出るよ」
「へー、なんのバイトしてるんだ?」
「メイド喫茶だヨ」
ほう、メイド喫茶。四宮とリージアのメイド姿か……別に興味ないけど一度行ってみようかしら? いや、興味ないけどね、挨拶がてらね?
「カナタも暇だったら今度おいでよ、えっちなサービスするよ?」
「風営法に引っかかるようなことはやめましょうね……」
隣に座るリージアが詰め寄って誘惑をしてくる。ああ、何でいい匂いがするんだろう。鼻孔をくすぐる臭いに陶酔してしまいそうだ。むしろこのまま堕ちてしまいたい。
「リージアって他のバイトの子やお客さんからもすごい人気なんだよ。特に男性
のお客さんからはアイドル的存在として大好評!」
「あはは、リージアが男と知ったらお客さん泣いちゃうな」
「大丈夫、みんな知って崇拝しているから」
日本終わってたわ。
「そういえば三条さんとは仲直り出来たの?」
と楓がそんなことを聞いてくる。
「え!? 彼方クン深雪と喧嘩してるの?」
「いや、喧嘩というか、少し言い争いをしただけで……」
「それで仲直りしたの?」
「……特に何もしてないけど、あいつ、いつも通りだったから大丈夫かなーと」
俺がそう言うとみんな頭を抱え哀愁の目で見てくる。
「カナタ……あんなに意気揚々としていのに、それはないよー」
「蛆虫以下」
「良い、彼方クン? どんなに相手が悪くてもとりあえず男が頭を下げるものなんだよ」
ちょっと、その理不尽な理論の前に深雪は男だからね?
だが俺の反論の余地を与えないように、三人が責め立ててくる。
「とにかく謝らなきゃ駄目だとボクは思うヨ」
「土下座、もしくは切腹」
いや、最後の死んじゃうからね。
「深雪にも何か考えがあるんだよ。きっと……」
「彼方クンはどうしたいの?」
「……」
四宮の言った言葉が深く突き刺さる。
「俺は、あいつが幸せならそれでいいよ」
「違うよ、彼方クン自身がやりたいことだよ」
俺は何がしたいのだろう?
俺自身、今の状態は平穏だと思う。
何もしなくても問題はないだろうけど、それは目を背けているだけじゃないだろうか?
逃げているようで、負けてしまっているようで少し癪に障る。
「俺は……あいつの傍に居たい。深雪が隣で笑ってくれればそれでいいのかも……。だけど、あいつは今何かに苦しんでいて心から笑えてない気がするんだ。今まで気付かなかっただけで昔からそうだったのかもだけど、だからこそ救ってやりたい。あいつの心からの笑顔が忘れられないから」
スッと出てきた本音を一気にぶちまけてみた。
すると言葉を失ったように、一同呆然としている。
「愛の告白だっ! むきーっ!」
「わかっていたけど、やっぱりそうなんだ……」
「ああ、私は男子に負けたんだぁ……」
何やら意気投合している三人である。
「とにかく、そういうことで……どうすればいいっすかね?」
「うわあ……、台無しだー」
「打ち首決定」
「あ、今の普通にない」
おうふ、四宮さんのナチュラルな拒否は大ダメージですぞ。
何にせよ今後の方針は決定したわけで、深雪の喜びそうなことを思いついた限り提案していくことになった。
「カナタがみゆきっちを押し倒す」
「彼方君が三条さんの唇を奪う」
「彼方クンが深雪と禁断の花園へ……ぶふほっ」
碌なアドバイスがなかった。あと、四宮はなぜか頬を赤く染めている。
「もう少しまともな意見をお願いしたいのですが……」
「そもそも、深雪のこと一番知ってるのはカナタなんだから、自分でやり方を考
えるのが手っ取り早いんじゃないかな?」
「ばっか、こういうのは身近だからこそ気づけない点ってやつがあるんだろ?」
「彼方君が鈍感畜生なだけだと思うよ。いま言ったことだって、あながち間違えじゃないと思うよ。若いんだから盛りのついた行為に身を投じて一夜の過ちを犯そうよ」
この人たちは俺を貶めたいのでしょうか? あと過ちを促進するな。
「参考までに、彼方クンの深雪の喜ばし方を聞きたいな」
四宮はメロンソーダをチビチビ飲みながら聞いてくる。
「そうだな……。機嫌が悪い時はもので釣るぞ、甘い物を買ってきてやると笑顔になるんだ。それが子犬みたいですごく可愛いくて可愛くて……。あとは、たまに早起きして朝食を内緒で作ってやったりすると、自分の仕事を取られて少しむすっとするんだが、なんだかんだ喜んでくれるなあ。焦げたトーストなのにね。ごはんと言えばこの前夕飯の手伝いをした時なんて鼻歌まじりに料理してたな、ありゃ相当上機嫌だったぞ。あとは誕生日のときにだな……」
「……っ」
「はあ……」
「彼方クン、私たちいる?」
どうしたのだろう? なにやら皆不機嫌なご様子だ。楓なんかわざと音を立てながらストローでジュースを飲んでいる。あとリージアが机の下からガツガツ蹴りをかましてくる、非常に痛いのでやめていただきたい。
そうして彼女たちはそれから喋ることなく、無言でゲームを始めてしまった。俺も参加したのだが何故かパーティから蹴られた。
俺は成すすべなく、カコンとコップの氷の音だけが虚しく響くのであった。
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