第16話 紫髪の少女

「なによ、これ…。」

 キヨコに案内された部屋に入った瑛美は驚愕する。

 そこは数人の人間がいる、機械だらけの部屋だった。 

 おおよそ、家庭とは言えない、部屋。

「あーっ!ソラちゃんやっと帰ってきたあ!」

「ごめんごめん。ただいま。」

 奥の部屋にいた紫の髪の少女が玄関にいるキヨコに気づくと、ぱっと椅子から飛び上がる。その勢いのままキヨコへと駆け寄り、腰に抱きついた。それを受け止めにこやかに応じるキヨコを見て、瑛美はさらに驚く。ソラと呼ばれたキヨコの笑顔だと思ったからだ。

「潔子の身体はだいぶ回復してる。あとは微調整すれば数日で戻れると思う。」

「なるほど。あと数日か。ありがとうユメ。」

 瑛美のことなど視界に入っていないかのように少女は晴れやかな笑顔でキヨコに話しかける。キヨコもよしよしと優しく少女の頭を撫でる。そしてやっと二人の仲良さげな雰囲気が落ち着いたころ、少女がちらりとこちらへ視線を流した。それはとても冷ややかな横目だった。

「――で。こいつ、誰?ソラちゃん。」

 声もワントーン低い。

「んー。潔子の友人?いじめっこ?」

「何それイミフ。」

 べ、とこちらに舌を出してしかめつらで瑛美を見上げる少女の態度に、さすがにカチンとくる。

「ちょっと。どういうことか説明してよ。」

 瑛美が怒りのままキヨコの肩へ手を置いた途端、場の雰囲気が急激に冷えた。視界も反転し、頭や背中に激痛が走る。

「っい、たっ!……え!?」

「ソラちゃんに触るな。」

 痛みと衝撃で思わず瞑った目をうっすら開けると、少女の顔が見下ろしている。怒気をはらんだ、あらかさまな敵意を含んだ声で瑛美を睨みつけている。それだけではない。少女は、《メス》を瑛美の眼球1㎝も空けない距離で構えていた。

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