第13話 時は再び

 屋上でキヨコと話し合った後、裕也は瑛美を家まで送ることになった。その帰り道のデートで例の公園に寄って最近の出来事を話したが、瑛美は特にキヨコの話はしなかった。どう話せばいいのかわからなかったこともある。

「なあ、瑛美。えーみ」

「はいはい、どうしたの?ちゃんと聞いてるよ」

 話もつきかけたころ、瑛美は藤棚の下のベンチに腰掛けスマホをいじっていた。頬にキスされながら甘ったるい声で自身の名を呼ぶ裕也に首を向けると、その目にいやらしい欲望が混じっていることに気づき、瑛美は静かに警戒レベルを上げ、スマホをいじる指を止めた。

「ね。今日、親いないんだ。…ウチきて、シよ?」

 耳元でそっと囁く声に瑛美はゾワりと鳥肌がたった。最初のアレのあと、何度も何度も身体を求められたが、裕也が落ちぶれたことに気づいたときから、瑛美はうまく逃げてきた。最後にシたのはいつだっけ。どういう理由でこの前逃げたっけ。

「今日は駄目なんだ。実はアレの日なの。また今度。ね?」

 裕也を下から覗き込んではにこりと笑い、裕也の唇に人差し指を押し付ける。

裕也は腰に回した腕を離したが、その腕で瑛美の手首を掴んで立ち上がり、強引に歩き出した。

「え。なに。裕也、ちょ、痛い。そっちは私の家の方向じゃ…」

「無理。アレの日でも何でもいいけど、もう我慢できない。俺んちにいくよ、瑛美。」

 公園を出て歩き始めた裕也の向かう先が彼の家であることに気づいた瑛美は、慌てて足に力を込める。しかし、裕也の力は瑛美のそれよりも遥かに強い。

「っ。嫌だってば!離して!」

「!静かにしろって」

 無理やり裕也の腕を振り払ったとたん、瑛美の右頬に熱い痛みが走る。頬を張られたのだと気づくと、痛みと恐怖で瑛美は呆然と頬を押さえたまま裕也を見つめる。その後ゆっくり周囲を見渡すも、裕也は人通りの少ない細い道、誰も歩いていないことを確認して瑛美に暴力を振るったことに、瑛美は気づいた。裕也はズルくなった。

「あぁ、ごめん。瑛美があんまりにも俺の言うこと聞いてくれないからさ。ほら、わかるだろ?…とりあえず、家に行こう瑛美。大丈夫、言うこと聞いてくれさえすれば、痛いことなんかしないから」

 支離滅裂な裕也に再び腕を掴まれると、半ば引きずられるように瑛美は動かされる。今日はなんて日なのだ。キヨコに敗北し裕也にはこれから身体を奪われる。全部、キヨコのせいだ。なんで、なんで私ばかり―――。


「もう、助けて。」

「もちろん。助けるわ。」

 小さな声で呟いた涙混じりの声を、拾った言葉があった。

 裕也の腕がびくりと跳ね、瑛美は顔を上げた。

 

 屋上で見た、あの緩やかな微笑みを讃えた、キヨコがいた。








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