第12話 少年たちのけだるい時間
どちらかと言えば渓流といっていい川であるが、深いところは結構深い。
「1番いきまーす!」
川面に突き出た岩の上から、掛井悠鷹は、きれいにトンボを切って飛び込んだ。それを川原から遠目に見ながら、氷室はぼやく。
「ガキ……」
水と戯れる同級生たちを眺めながら、氷室はなにやらぼやき続ける。
「だいたいやな……」
何がくだらないといって、女の子なしの水泳の授業ぐらいくだらないものはない。筋肉隆々、あるいは胸毛まで生えていようかという野郎どもである。海パン姿を10数体並べられて、気色のよかろうはずがない。そんな連中と半裸になってじゃれあうなど、氷室の美意識が許さなかった。
ごろりと川原に横になると、隣には、既に陽介が寝ている。相変わらずの無表情である。生きているのか死んでいるのか、ときどき心配になる。
「おい、起きてるか?」
ついと突付くと、陽介は細く目を開ける。
「もう、授業、終わりか?」
「まだ、20分ほどあるなあ。」
「寝かせろ」
つっけんどんに言って、陽介は再び目を閉じる。
陽介の目に映っているのは、冬の冷たい水底である。彼は、はるかな高みにある、ほのかな光を見つめながら、そこに横たわっているのだった。
水の流れは、かすかではあるが、はっきりと全身の皮膚に感じられる。その中を、いくつもの幻が流れていく。それは、氷室のようでもあり、悠鷹のようでもあり、絵梨佳のようでもある。彼がこれまでに会った人々の姿が、それこそ袖擦りあう程度の人に至るまで、水の光の中に浮かんでくる。重なり合う影・影・影。陽介は、その影たちに抱かれていることを知っていた。
これが幸福というものなのだろう、と、彼は思っていた。
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