第11話 水辺の少女たちの内緒話
「ねえねえ、みゆき、みゆき……」
石動絵梨佳は、白いかわらにころりと横になって、隣にねそべる那智みゆきに囁きかける。2人のスクール水着の上から羽織ったTシャツには、水着の黒がぼんやりと透けて見える。
みゆきは答えない。まだ暑いとはいえ、そろそろ高くなり始めた空の澄んだ青を見つめているばかりである。絵梨佳は、う~んと唸って、しなやかな白い脚を初秋の空に向かって伸ばし、ぱたんと落とす。
シャツのすそから覗く水着は、濡れてもいない。一応水泳の授業と称してはいるが、川はどうしたって競泳には適さない。また、中学までの夏休みならいざ知らず、もはや少女たちは濡れたTシャツのからみつく水着姿を、平気で外に晒すことはできなくなっていた。
「な~に~、絵梨佳ちゃん?」
けだるそうにみゆきは答える。剣道部の朝練は、結構こたえる。こんな時にでも寝ておかないと、午後はもたないのである。
「氷室君のこと、好き?」
「全然。」
遠い目で空を仰ぎながら、みゆきは平然と答えた。
「何で?気があるの?」
絵梨佳は慌てた。
「え~、違う違う、だって私、悠鷹君がいるもん」
「この。」
必死で否定する絵梨佳のさりげないのろけに、みゆきはその額をかるくこづく。
「痛いな、も~……だって、氷室くん、みゆきちゃんのこと、いろいろ聞いてくるんだもん」
ちょっと怒ってみせて、絵梨佳は意味ありげに微笑んだ。
「奈美ちゃんのことも聞いたでしょ?」
「全然。」
「そのうち聞いてくるよ」
寝転んだまま首をかしげる絵梨佳を眺めながら、みゆきは、内心でぼやく。
(この子はも~。あたしにかこつけて、あんたに絡んでるんじゃない。鈍いんだから)
「なになに、何話してるの?」
水際の浅瀬で他の数名とじゃれて遊んでいた奈美が戻ってきた。
まだ、太陽の光は熱い。Tシャツには、水着に抑えられた体の起伏が、影となって映っている。濡れている素足の跡が大き目の砂利の上に点々と残る。 無理やり2人の間に割り込んで寝そべると、彼女は頭ひとつ背が高かった。
「氷室君のこと。」
「え、なになになに、みゆきちゃん、もしかして……」
「何であたしなの!」
絵梨佳の返事で何やらうろたえる奈美に、みゆきはすかさず突っ込んだ。
「だって、絵梨佳ちゃん、悠鷹君いるし……」
絵梨佳が、ぽんと手を叩いた。
「あ、奈美ちゃん、もしかして……」
「うん……」
くすっと笑って、絵梨佳は奈美の豊かな胸に頭を乗せる。
「がんばってね。」
励ましの言葉と共に、みゆきも奈美の胸を枕にして、居眠りの続きをはじめる。つられるように、他の二人もとろとろと眠りにつく。遠くから、少年たちの嬌声が聞こえてくる。
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