第11話

女を食事に誘ったのは事実だ。

だが、それはいつも有名店のお高いスィーツを

土産にくれる礼として。

勿論、その旨は女にもキチンと伝えていた。

断じて下心などない―――――

いや…

男は思わず苦笑する。

女が専務の姪だと聞き、好印象を与えておきたいという

打算的な気持ちが働いた事は否めないが…

出世欲であって、決して女性に対するソレとは違う。


しかし、あまりにも軽はずみな行動だったと今更ながらに後悔していた。

まさか、女があんな行動に走るとは…


始まりは駅前にある大型書店だった。

上司から勧められたビジネス書を求め、立ち寄った際に声を掛けられた。

「まぁ、主任。こんな所で会うなんて偶然ですね」

女は心底驚いたような顔をしていた。

だから、特に深く考える事もなく「そうだね」と軽い返事を返し、少しだけ

愛読書の話をしたのだ。

その後も度々に遭遇した。

気になりつつも、会う場所がCDショップだったり、家電量販店だったり

コンビニだったり…女が会社帰りに立ち寄ってもおかしくない店ばかりだった為

そんな事もあるのかなぁ―――程度にしか思っていなかった。


それから程なくして、偶然が必然に変わった。


女は同級生たちとの酒宴に現れ、いつもの如く【偶然】と言い放つ。

『友人と待ち合わせをしていたんですけど…』

上目遣いに男の様子をうかがいながら

『ドタキャンされちゃったみたいで―――――』

物欲し気な顔に、思わず鳥肌が立つ。

お調子者の幼馴染が、じゃあ一緒にどう?と言うと当然と云わんばかりに

座敷に上がり込んだ。


その時になって男ははっきりと理解した。

自分はこの女にストーキングされていたのだと…


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