第10話

ざわめきが消えると、球体に映し出されていた

恋人の静止画が再び息を吹き返す。


男は赤に変わった信号の前で足を止め、チッと舌打ちした。

まったく、今日はとことんツイていない。

黒縁メガネを指で押し上げると、鞄から携帯電話を取り出し

メール画面を開く。

その顔に、怒りの表情が浮かび上がった。

全てこいつの所為だ。

あの、が、いきなり訳の解らないメールを

送りつけて来たから。


―――――…


『今日は私の40回目の誕生日です。』

…そんな事、知るか。


『だから、一つだけ私のお願いを聞いてください

 今夜どうしても貴方に会いたい。会って話がしたい』

…何だよ、話って?

 っうか、”貴方”とかキモ過ぎだし。


『あの場所で。

 貴方が、一番最初に誘ってくれたあの居酒屋で。

 待っています』

…”一番最初”ってどういう意味だよ。あれが最初で最後だろうが。


『もし来てもらえないのなら、貴方との関係は終わりにします』

…マジ、頭おかしいんじゃねぇの?

 ”関係”って―――ただの上司と部下だろ?


男は眉間に深い皺を刻み、画面を睨み付けた。







  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る